【仮想通貨小説】~仮想の果実 7~

七 エピローグ 洋上の潮風が少し日焼けした顔に心地よかった。船室に飽きて甲板に出てきた陽一は 深呼吸して胸にいっぱい新鮮な空気を吸い込んだ。日本の港を出てから一週間が過ぎた のだが、まだ夢を見ているような気分が抜けない陽一だった。夫婦は今、豪…

【仮想通貨小説】~仮想の果実 6~

六 暗雲の向こう側 坂井家の住宅は、市街地の中心からかなり郊外の方にあるので車で飛ばしても市内まで三十分はかかる。走りはじめ た車内には妙な空気が漂っていた。今や猜疑心の塊になっている父親は、押し黙ったままだし,息子の将来を悲観して いる母親は…

【仮想通貨小説】~仮想の果実5~

五 求めない誤解 陽一と順子は、二階の和彦に聞こえないように気を使いながら小声で話しをしてい た。和彦はまだ寝ているようだ。夫婦の話の中心はどうやって和彦を怒らせずに病院に 連れて行くかだった。あれから陽一は、和彦から自分がいかにして億万長者…

【仮想通貨小説】~仮想の果実 4~

四 霧の中 陽一は、書斎で酒の酔いを醒ましていた。夕食を食べながら切り出した二人の大事な話というのは、やはり結婚の事であった。夫婦ともだいたい察しはついてはいた。 とはいうものの具体的に結婚の二文字が出てくると少しだけ気おくれする感じは否めな…

【仮想通貨小説】~仮想の果実 3~ 

三 宴の日 坂田家には、いわゆる猫の額ほどの庭がある。その庭に入る門柱のステン製の扉を開 けると右側に見るからに貧弱そうな雑木がある。 多分どこかの鳥が種子を運んできたものだと思う。なぜなら夫婦にはそれを植えた記憶 がなかった。それから玄関の脇…

【仮想通貨小説】~仮想の果実 2~

二 春の日の来訪者 「はーい、今行きます」 妻の順子の声が聞こえ、玄関を開ける音がし続いて若い女の声がした。 「こんにちは・・・」 「あのー、どちら様でしょうか?」 順子のちょっと警戒するようなそれでいて少し嬉しそうな声がしていた。 「あの・・・…

【仮想通貨小説】~仮想の果実 1~ 

一 老いの誤算 「もう、あれから一年か・・・・・」 と、陽一はつぶやいた。つぶやいて、大きな溜息をつく、その後両手で頭を抱えるポー ズをとる。そしてまた、溜息をつくそんな事を繰り返しながら陽一はこの一年を過ごし てきた。坂田陽一は、今年六十二歳…