星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨小説】~仮想の果実 2~

 
 

春の日の来訪者

「はーい、今行きます」
 
 妻の順子の声が聞こえ、玄関を開ける音がし続いて若
 
い女の声がした。
 
「こんにちは・・・」
 
「あのー、どちら様でしょうか?」
 
 順子のちょっと警戒するようなそれでいて少し嬉しそ
 
うな声がしていた。
 
「あの・・・和彦さんはいらっしゃいますか」
 
「和彦ですか。はい、おりますけど・・・あの失礼です
 
けどお宅様はどちら様でしょうか?」
 
 そこまで聞いて、陽一は書斎を出てさりげなく玄関を
 
見た。順子の前に、二十四、五くらいに見える若い女性
 
が少しはにかんだ様子で立っていた。
 
「すみません申し遅れました。わたし、和彦さんが以前
 
働いていた会社の同僚で真島さやかと言います」
 
 陽一が、リビングに入ろうとしているのに気づいた彼
 
女がお辞儀を軽くしたのであわてて返した。
 
 「あ、じゃあちょっとお待ちください」
 
 そこまで言うと順子は二階に向かって声を張り上げ
 
た。
 
「和彦、和ちゃんお客さんよ。下りてきて」
 
 リビングで陽一と順子は黙ってコーヒーを飲んでい
 
る。部屋中にコーヒーの香が漂っていた。半分ほど
 
飲んだ所でもう我慢が出来ないという風に順子が口
 
を開いた。
 
「ねえ、あのお嬢さん和彦の彼女かしら、あなたどう思
 
う?」
 
 陽一は、残りのコーヒーをいっきに飲んだ苦みが少し
 
口に残った。
 
「・・・・・」
 
「和ちゃん、結婚とかいろいろ考えているのかしら?」
 
 のん気でいいな、この人はと陽一は思っていた。だい
 
たい結婚してからがそうだった。彼女には危機感という
 
ものが無い、いや、あるのかもしれないがあまり人前で
 
は見せないのだ。まだ、二人が若く和彦が幼かった頃わ
 
が家の経済状態はかなり厳しかった。仕事は頑張ってい
 
たが、なにせ給料が安かった。働いても働いてもなかな
 
か貧乏所帯からは抜け出せなかった。そんなこんなで、
 
ついイライラして彼女にもろに感情をぶつけてしまった
 
ことがあった。そんなときでも彼女は泣きもせず、いや
 
本当は俺の知らないところで泣いていたのかも知れない
 
が・・・・・。
 
「何とか、なるわよ」が彼女の口癖だった。今となって
 
みればそれに随分と救われたような気がするが。
 
「ねえ、聞いてる?」
 
 順子に、そう言われて陽一は、コーヒーカップを手で
 
もてあそびながら言った。
 
「あぁ聞いてるよ、でも仕事もしていないのに結婚がど
 
うのとかの話じゃないだろう」
 
「そりゃあ、そうなんだけど…そんな事、何とかなるん
 
じゃないの」
 
 ほら、やっぱり出たと陽一が思った時、二人が二階か
 
ら下りてきた。和彦は外出する格好をしていた。
 
 「ちょっと、出かけてくる」
 
 和彦が靴を履いているその隣で、さやかが笑顔まじり
 
の元気な声で言った。
 
「おじゃましました。これで、失礼します」
 
「まあ、まあお構いもしませんで」
 
 玄関の上がり框のところで、順子が愛想笑いの挨拶を
 
した。
 
「和彦、遅くなるのか?」と陽一が聞いた。
 
「ああ、だから今日は夕食の用意はいいよ」
 
 和彦と真島さやかと言ったお嬢さんを見送った後、夫
 
婦二人は期待と不安が入り混じった妙な気分で書斎と台
 
所に戻っていった。