星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨小説】~仮想の果実 7~



エピローグ

 洋上の潮風が少し日焼けした顔に心地よかった。船室
 
に飽きて甲板に出てきた陽一は深呼吸して胸にいっぱい
 
新鮮な空気を吸い込んだ。日本の港を出てから一週間が
 
過ぎたのだが、まだ夢を見ているような気分が抜けない
 
陽一だった。夫婦は今、豪華客船で世界一周の旅に出た
 
ばかりだった。和彦のマンションを訪れてから一年が過
 
ぎていた。あの後、マンションを出て陽一達は真島さや
 
かと合流したのだが自分の人生の中では一生行く事は無
 
いだろうと思っていた超が付く程の高級レストランで夕
 
食を共にした。
 
「私も、和彦さんから初めて聞いたときは信じられなく
 
て彼が悪い冗談を言ってるんだと思ってました」
 
 手には、ナイフとフォークを持ってさやかが言った。
 
「その気持ち、解る俺なんか和彦が喋ってることなん
 
てほとんど聞いてなくて、これは病院に入院させた方
 
が良いのかななんて考えていたもんな」
 
 陽一はいかにも慣れてないという手つきでステーキ
 
を切り口の中に放り込んだ。その隣では順子がエス
 
ルゴをつまむのに苦労していた。
 
「そうよね、あたしなんか和彦の将来を悲観してポロ
 
ポロ涙ばっかり流していたもの」
 
 順子が言った。
 
「なんだやっぱり、親父たち俺を病院送りにする相談
 
してたのか、ひどいな」
 
 和彦がそう言って、苦笑するとそれを聞いていた陽
 
一も順子もさやかも一斉に笑った。食事が終わってコ
 
ーヒーを頼んだ時、陽一がほとんど聞いてなかった今
 
までの顛末を和彦が話し出した。和彦が買った仮想通
 
貨それが全ての始まりだった。仮想通貨の名前は、ビ
 
ットコインと呼ばれていたのだが和彦がそれを手に入
 
れた当時は仮想通貨そのものがあまり知られてなくて
 
和彦自身もアメリカから帰って来て仕事に忙殺されビ
 
ットコインを買ったことも忘れていた。買った仮想通
 
貨はパソコンのベッドの中で静かに眠っていた。時が
 
来るのを待つように・・・・・。
 
「それから、何年か経ってある日ジョージから突然連
 
絡があったんだ」
 
 ちょっと喋り過ぎたのか、喉を潤すように和彦はコ
 
ーヒーを飲んで話の続きを始めた。
 
ジョージは俺のアメリカの友人なんだけど、そのジ
 
ョージが言うには、いま仮想通貨が大変なことになっ
 
ているから。すぐビットコインの事調べてみろってい
 
うんだ。何のことかさっぱり解らなかったけれど取り
 
敢えずネットで調べて見ると・・・・・」
 
「そ、それでどうなったんだ」
 
 早く、続きをきかせろとばかりに陽一がせかすよ
 
うに言った。
 
「まあ、そう慌てないで、順を追って話すから」
 
 和彦は話の続きを始めた。
 
「俺が、アメリカに出張した時に買っていた仮想通
 
貨、つまりビットコインが信じられないことに約十
 
年で100万倍まで価値が上がっていたんだよ」
 
 陽一も順子も固唾をのんで聞き入っていたが、
 
さやかはこの話は知っていたらしく一人落ち着い
 
てコーヒーを飲んでいる。
 
「このことを知ったのが一年半前だったんだけど
 
、それから自分の気持ちを落ち着かせるのに大変
 
だったよ、だっていきなり大金持ちになった訳だ
 
ろ、起業してそれで成功して成金になったとかだ
 
ったら解るけど、実際は何にもやってなくてある
 
日突然そんな世界にポーンと放り込まれたんだか
 
ら」
 
 和彦は昔のことを思い出すような顔をしてい
 
った。
 
「じゃあ、商社をいきなりやめたのもそれが理
 
由か?」
 
 陽一が確かめるように聞いた。
 
「そう、そうなんだいきなりというか半年くら
 
い考えてなんだけどね」
 
「それなら、そうと言ってくれればいいのに」
 
 順子がちょっと不満そうに言った。
 
「無理だよ、だって自分自身が信じられない
 
事を他の人に理解させるさせるなんて事は
 
到底出来ないと思ったしそれでこれからの
 
事をじっくり考えようと思って会社を辞め
 
たって訳なんだ」
 
 和彦は、それから会社の起業の事や、ビ
 
ットコインを円に利確したときの税金の話
 
とかを陽一と順子の質問も交えて出来るだ
 
け解りやすく話して閉店時間ぎりぎりまで
 
喋っていた。そして一年があっという間に
 
過ぎ夫婦は今、洋上の人となっている。二
 
人とも和彦がそうだったように状況があま
 
りに変わったのでついて行くのに精一杯と
 
いう感じはあるのだが、それでも一年前に
 
比べたら随分慣れてきた。
 
「和ちゃんとさやかさん、パリで挙式する
 
んでしょ」
 
順子が言った。
 
「ああ、その時は二人で港まで迎えに来る
 
って言ってたけど、しかしいまだに信じら
 
れない気分だよ。世界一周の途中パリで和
 
彦とさやかさんのの結婚式に出席だなん
 
て」
 
 陽一は青い海を見ながら独り言のように
 
言った。
 
「そうね、でもこれは夢じゃない現実に私
 
たちは豪華客船の上にいるわ」
 
 しみじみと順子が言った。
 
 船はその巨体に結構大きな波を受けてい
 
るが微動だにもせず進んでいる、まるでそ
 
れは大きな財産を一気に持った坂田家のよ
 
うでもあった。甲板にあまり長くいすぎた
 
せいで少し寒くなった二人は船室に戻ろう
 
とした、その時、少し強い風が二人に吹い
 
た。見ると船の前方に黒い雲が湧き上が
 
っている。どうやら雨になるようだ。そ
 
の黒い雲を見ながら陽一は思わず呟いて
 
いた。
 
「良いことばかり続くはずはない、良い
 
ことばかりは・・・・・」
 
「あなた、何ぶつぶつ言ってるの早く行
 
きましょう」
 
 順子がせかすように言った。夫婦は今
 
まで歩んできた人生の道を歩むようにゆ
 
っくりとでもしっかりと船室の方に向か
 
って行った。