星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車 7~

 


「えー人生を生きて行く上で、、この世の中には三つの

坂があると言われています。先ず一つ目の坂は上り坂、

そして二つ目は下り坂、三つ目の坂がまさかと言う坂で

す」

 

これは、よく結婚式のお祝いスピーチなどで会社の上司

とかがたとえ話に使う事の多いフレーズであるが、その

まさかが浩一の身になんの予告も無しに、青天の霹靂の

ごとく起きたのだった。


「どうなってるんだよ、いったい・・・」


 浩一が、この異変を知ったのはたまたま入ったラー

メン屋に置いてあったテレビの放送でだった。事件の

概要はだいたいこんなものだった。2014年2月某

日マウントゴックス社のコンピューターに何者かがハ

ッキングを仕掛けてきてゴックス社が所有していた大

量のビットコインが一瞬にして盗まれてしまったと言

う事らしかった。

当然、浩一が持っていたビットコインも一瞬にして無

くなってしまった。ビットコインはいくら稼いでも仮

想通貨である限り日本政府の関与するところで無いと

いう利点があって税金の対象外という事だったのだが、

その反面こういう事態になっても日本政府はなんの関

与もしないつまり個人がビットコインでどんなに大損

しても何の救済もしないという事だ。つまり、すべて

は自己責任である。とはいえ、浩一のショックは大き

かった早速ゴックス社に問い合わせの電話をかけたの

だが


「ただいま、回線が大変混雑して電話が繋がりにくい

状態になって大変ご迷惑をおかけいたしております。

御手数ですがこのままお待ちになるか、しばらく時間

を置いてお掛け直し下さい」


 何度掛け直してもこの機械的な女性の声が聞こえる

だけだった。取り敢えず、浩一は渋谷にあるマウント

ゴックス社の本社ビルに行ってみる事にした。案の定、

本社ビルの前には大勢の報道関係者だったり、今回の

被害者とおぼしき人たち(これには浩一も含まれるの

だが)後はいわゆる好奇心だけの野次馬がやっぱり多

数来ていた。


「おい、兎に角中に入れろどういうことか社長の説明

を聞かせろよ」


 多分、被害者の一人と思われる青年が本社ビルの前

に立つ、警備員に詰め寄って叫んでいた。


「それは、残念ですが出来ません。関係者しか入れる

なと指示が来てるもんですから」


 警備員は、頑として入れないぞという顔でこう答え

た。


「ふざけるな、俺たちは被害者だぞ関係者も関係者、

大関係者だろうが」


 そうだ、そうだと周りからも声が上がっていた。

警備員は、最初二人だったが押さえ切れないと見た

のか後から応援の三人が来て五人になっていた。騒

ぎはだんだんと大きくなっていく様相が濃くなって

来て、誰が呼んだのかパトカーや警察官まで来てい

た。たかが一つの取引所で起きた事でここまでの騒

ぎになってしまったのはその被害金額の大きさのせ

いである。それもこれも、ビットコインの高騰のせ

いだったのだが今回ハッカーに盗み取られた言われ

ているその総額はなんと114億円相当との事だった。

その時、警備員を押しのけて独りの男がゴックス社

の正面玄関から出て来た。その手に持っていたハン

ドスピーカのスイッチを入れ男が喋り出した。


「皆様、この度は当社に突然の災難が降りかかりま

して皆様にも多大なるご心配をおかけしております

が、その詳細につきましてマウントゴックス社の社

長が本社社屋で時間は未定ですが、夕方記者会見を

行う事になりました。なお、混乱を避ける意味で中

に入れるのは報道関係者のみとさせていただきます。

以上です」

 
 それだけ告げるとゴックス社の社員と思われる男

は、ビルの中に消えていった。後に残されたものは、

もうこれ以上粘っても中には入れないと諦めて帰る

者や、それでもしつこく帰らず本社前で坐りこむ者

など人それぞれだったが、その中で浩一は一旦家に

帰ることにした。テレビで記者会見の模様が放送さ

れることをそこにいた報道関係者から聞かされたか

らだった。こんな寒い中夕方までこんなところに立

って待っていたって風邪をひくだけだと判断したか

らだ。変える途中コンビニで晩飯用の弁当とビール、

それにおつまみを買ってアパートに戻った時にはも

う午後4時を回っていた。浩一は部屋に入るとスト

ーブを点火し、リモコンでテレビのスイッチを入れ

たがまだ記者会見の放送は始まってなかった。


「取り敢えず、ビールでも飲んで待っとくか」


 浩一は、缶ビールのプルトップを切りおつまみに

と一緒に買って来ていたポテトチップスコンソメ

の袋をテーブルの上にひろげた。部屋にチップスの

香ばしい匂いが広がり1,2枚つまんで、缶ビール

をぐっと飲むとチップスとビールが口の中で混ざり

合い一気に喉を潤して行った。


「カーッ、旨いこの組み合わせは最高だな」


 浩一が、胸の不安をビールで消しながらそうやっ

て時を稼いでいるうちに午後5時になり、マウント

ゴックス社社長の記者会見の放送がやっと始まる所

だった。