星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車 10~


 夢の中で浩一は大きな歯車に挟まれ苦しんでいた。

やがてその歯車が、大きな力でいきなり歪みはじめて

浩一の身体を押しつぶすように回転し始めたのである。

浩一の肉体は捻じ曲げられ内臓は飛び散りその四肢が

バラバラになったところで眼が覚めた。


「嫌な、夢を見たな・・・・・」


 浩一がキャバクラを出てアパートの自分の部屋に戻

って床に就いたのは、もう夜明け前に近かった。ベッ

ドから起き出した時には、時刻はもう午前11時を過ぎ

ていて、飲み過ぎのせいであんな夢を見たのかなと思

いつつもトイレを済ませ台所に行きコップ一杯の水を

乾ききった喉に一気に流し込んだ。まだ、アルコール

が身体中に残っているのが解った。二日酔いの頭でパ

ソコンの前まで来て起動のスイッチを押した。


「どれどれ、どのぐらい今日は増えているかな・・・

・・」


 そんな、呑気なことを言っていた浩一だったがパソ

コンの画面を見た途端、言葉を失ってしまい、呆けた

人の様にあんぐりと口を開けたままになってしまって

いた。


「何だよ、何なんだよこれは」


 と、浩一が唖然としてつぶやいたのも無理なかった。

昨日まで留まる所を知らない勢いで上昇していたビッ

トコインが何という事か一晩で大暴落を起こしていた

のである。


「嘘だろ、こんな事ある筈が・・・」


 浩一は、そう言いながら急いでほかのコインの相場

も見てみたがビットコインに引きずられでもしたのか

ほとんど同じく大暴落を起こしていた。浩一がこの一

週間で増やし続けた資産はものの見事にその価値を無

くし雲散霧消していた。浩一の顔から血の気が一瞬に

して引いていた。今は何も考えられなくなったその顔

は変に歪み、顔面蒼白となってしまっていた。それか

らの浩一はパソコンの画面を寝る事も忘れて、ずっと

見続けていた。


「相場は、一度落ちても必ず復活して又上昇する筈だ」


 浩一はそう考えて、寝ずにパソコンの画面を見てい

たわけだが無情にも大暴落を起こした仮想通貨の相場

は中々元には戻らなかった。戻るどころかますます下

降線をたどっていた。実は、この時の浩一の考えはあ

ながち間違いではなく時を置いてビットコインはこの

時の暴落して損をした分を簡単に取り戻す位に跳ね上

がって行く訳だがそれはまだ当分先の話である。しか

し、この時の浩一はとことん運から見放されていたも

のらしくそれをひたすら待ち続ける時間は無かった。

なにせ闇金から借りた金の返済期日が明日に迫ってい

たのである。


「どうする、時間がないぞ何か考えろ、考えろ、考え

るんだ」


 結局、良いアイデアは中々浮かばず時間だけが刻々

と過ぎて行った。そして、借金返済の当日の朝を迎え

る事になった。浩一が必死になって出した結論、借金

取りから遁れる一番シンプルな方法それは居留守を使

う事だった。そして、夜になるのを待って逃走を図る、

兎に角時間を稼ぐことを浩一は考えていた。きっと、

逃げ回ってる間に俺の持っている仮想通貨が必ず復活

して闇金の借金くらい簡単に返せる様になる筈だ。い

やきっとそうなる資産が減ったと言っても買った仮想

通貨のコインの数は、変わらない相場さえ元に戻れば

いやそれ以上に上がれば一瞬にして俺の資産は取り戻

せるはずだ。浩一がそう思った時コンコンとドアーを

ノックする音が聞こえた。


「おはようございます。阿久戸金融ですが、いらっし

ゃいますか」


 ドアーが何回も叩かれたが、当然居留守を使ってい

る浩一は返事をできる筈もなく部屋の隅っこで阿久戸

金融の社員があきらめて帰るのをひたすら耐えて待っ

ていた。


「おかしいな、こんな朝っぱらからどっかに出かけと

も思えんが」


 少し、関西訛りが入ったドスの利いた声が聞こえて

言いた。


「おい、お前はここで見張って居ろ俺は社長にこのこ

とを報告してくるから、もしかしてあの野郎バックレ

やがったかもしれん?」


「はい、わかりました」


 ドアーの外のこんな会話を聞きながら、浩一はとに

かく物音を立てないように身をすくめていた。生きた

心地のしない時が過ぎて行った。二時間ほどしたらや

っとあきらめたのか奴らの気配がしなくなっていた。

浩一は、そっとカーテンの隙間から外をのぞいてみる

と、案の定裏手の露地に一人立っていた。多分階段の

下あたりにもう一人見張りがいると思われた。


「さて、どうやって逃げるか兎に角夜が来るのを待つ

しかないな」


逃げる準備は既に出来ていた。パソコンのたぐいは天

井裏に隠した。これは仮想通貨の相場が元に戻った時

の為だった。後は、逃げているときの食糧費これだけ

は何とか確保しておいたが、問題は奴らの眼をかいく

ぐりどう逃げおおせるかだった。浩一はその一番大事

な所の作戦はまだ考えていなかった。時だけが過ぎて

行きやがて夕方になり闇が辺りを包みはじめた頃、浩

一の頭にある考えがやっと浮かんだのだった。