星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車 11~

 

十一


 昔からピンチはチャンス、チャンスはピンチという

言葉があるが、それは日頃の努力が実ってやっと運を

つかみかけている者を指す言葉で浩一の場合、この場

面でのピンチは本当の意味のピンチで闇金の連中にも

し拉致でもされたら、これはちょっとシャレにならな

い状況に成る事は誰の目にも明らかだった。それに今

の所金を返す当てもない浩一なのだが、たった一つ望

みがあるとすれば仮想通貨の相場が又暴騰する事なの

だ。それには兎にも角にも時間が必要なのだが、その

時間は、やがて午後十時を過ぎる所だった。


「そろそろ、仕掛けてみるか」 


 浩一は真っ暗闇の中でポツンと呟いてスマホを取り

出し電話を掛けた。呼び出し音が鳴りやがて相手の声

が聞こえてきた。


「はい、こちら東京消防庁です。火事ですか、救急で

すか」


 相手に聞こえる最小限の言葉で、浩一は話した。さ

っきカーテンの隙間からのぞいたら、やはり昼間の男

がまだ立ってタバコを吸っているのが見えていた。極

力この会話を気づかれない様にしなければならなかっ

た。浩一は出来るだけ弱々しい声で相手に伝えた。


「すいません、体調が悪くて吐き気もするんですが救

急車を呼んでもらえませんか」


「分かりました。先ずあなたの住所を教えていただけ

ますか?」


 丁寧に解りやすく相手に教えた勿論、出来るだけ気

配を消してだが、一番近くの消防署から出動するらし

いのだが、それでも二十分ほど到着に掛かると言われ

た。浩一はドアーに取り付けてある覗きレンズからそ

っと外の様子を窺って、それからカーテンの隙間から

裏の露地を見てみた。暗かったが男が立っているのが

見える。


「良かった、まだ気づかれてはいないな」


 そう言うと、浩一はそっと洗面台の方に移動してい

た。洗面台の右の小さな引き出しを開けてそこから薬

の箱を取り出した。


「まさか、こんな状況でこれが役に立つとはな」


 それは、睡眠導入剤だった。まだ浩一が会社勤めの

頃、仕事が上手くいかず軽い不眠症を患った事があっ

た。その時に薬局から買っていたものがまだかなりの

量残っていたのだ。ちょっと危険だったがこの際そん

な事は言ってられなかった。コップに水をなみなみと

入れ浩一は全ての錠剤をすべて手のひらに移し一気に

飲みこみコップの水で無理に流しこんだ。程なく頭が

朦朧となって来た。暗やみの中で気配を殺して待って

いるのだが、そのたった20分が浩一には永遠に思える

ぐらい長かった。暫くするとボーっとしている意識の

中で、遠くの方から救急車のサイレンの音が近づきや

がてアパートの下で止まったのが解った。アパートの

ドアーが無理にこじ開けられる音が聞こえた。


「大丈夫ですか、私の声が聞こえますか」


そう連呼する声に交じって時どき誰かが、かなり激し

い口調で怒鳴っている声も聞こえた。


闇金の連中か・・・」


 心の中で浩一はそう思っていたが体の状態は想像以

上に悪くなっていた。実は、この思い付きのアイデア

は以前テレビで見た何かの特集番組だった。今現在、

社会問題になっている中の一つにいたずらではないの

だが、単なる腹痛とかちょっとした擦り傷程度で簡単

に救急車を呼んでしまう人が、年間にするとかなりの

数で発生していてそれが本来直ちに駆け付けなければ

ならない重篤な患者の妨げになっているというものだ

ったのだが、それを悪いことだとは思ったが浩一は利

用しようとしたのである。だが、ただの仮病だとすぐ

にばれてしまうのが落ちなので、本当に病気になる必

要があると思って先程の睡眠導入剤の事を思い出した

のだがこれが殊のほか効いたみたいで、当の本人の浩

一は少し後悔していたのだが、担架に乗せられ頭がグ

ルグルと廻って本当に気分が悪くなり吐き気も嘘でな

く襲って来ていた。後は、ただ救急車のサイレンの音

と時々目を開けると救急車の天井が目まぐるしく回っ

ているのが見え、やがてそれも分からなくなり意識は

カオスの中に消えて行った。