星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車 12~

 

 

十二


 成田国際空港は、千葉県成田市の南東部、三里塚

にある国際空港で長年にわたる空港反対運動を経て

現在ではレベル3とも言われる混雑空港に成長してい

た。その空港の第一ターミナル南ウイングに重低音の

エンジン音を響かせて一機の航空機が到着した。空港

ロビーは混雑していたがその中でも、上背があるその

男はひときわ目立つ事を気にしてか少し猫背気味に歩

いていた。


「スカイライナーの出発時間には、まだ少し早いか・

・・」


 時計を見ながらそうつぶやいたのは長いアメリカ出

張から、1年ぶりに日本に帰国した坂田和彦だった。

坂田は空港内にあるレストランで昼食を取り都心に向

かう電車に乗りこんだのだが、その車内の座席に坐り

ながら傍らのバッグから手紙を取り出していた。手紙

の送り主の名は中村浩一とあったのだが、坂田がニュ

ーヨーク支社に届いていたその手紙を見たのは、仕事

もひと段落着いたつい最近の事だった。内容は以前坂

田が浩一に送ってやった仮想通貨の事であった。その

手紙には出来ればもう少し仮想通貨を分けてもらえな

いかという事だったのだが、いかんせん坂田の仕事が

忙し過ぎて連絡を取ったのもつい最近の事になってし

まっていた。しかし、携帯はすでに料金延滞でもした

のか全然つながらなかった。


「中村の奴、わざわざこんな手紙よこすなんてよっぽ

ど困ってたのかな 坂田は、浩一の実家にも連絡を取

ってみたのだが父親が出て「あいつは、勘当したので

家とは一切関係ない」

けんもほろろに切られてしまった。それで、坂田は

実家に帰る前に浩一のアパートに向ったのだが、坂田

が杉並にある浩一のアパートについたときにはもう既

に午後2時を回っていた。階段を登り切った2階の一

番奥が浩一の部屋だったはずと表札を見たが、もう既

に別の名前に変わっていた。無駄だとは思ったがドア

ーのチャイムを鳴らしてみた。


「はーい」


 と、いう声と共に玄関のドアーを開けて出て来たの

は23才位と思われる子供をおぶった若い母親であった。


「何の、御用ですかセールスならお断りですよ」


 若いに、似合わずつっけんどんな言い方でその女は

坂田の方を見ながら言った。


「あ、いやセールスではありません。実は以前この部

屋に住んでいた中村と言う人をご存じないかと思いま

して」 少し、怪しむような視線で若い母親が言った。


「ああ、そんな事なら大家さんに聞いて下さい、うち

もここに引っ越してきたのついこの前何です。それに

ーあなたで二人目ですよそんなこと聞かれるのは、あ

なたと違ってガラの悪そうな二人組でしたよ。こちら

も迷惑してるんですけど何かやったんですかその人」


 大家の住所と電話番号を聞いた後、坂田はアパート

を早々に出て大家の所に向かった。すぐ近所に住んで

いるという事で少しホッとしていた。大家の家はすぐ

に見つかった。かなり年数は立っているものの和風建

築のかなり大きな家である。玄関のチャイムを鳴らす

と出て

来たのは腰のしゃんとした元気そうな老婆であった。


「どなた?」


 ひとしきり、さっきアパートの若い母親に話したの

と同じ説明を繰り返した。すると老婆はそれまでのむ

しゃくしゃをまるで坂田にぶつけるように話し出した

のである。

 「いやね、あたしゃあんたに何の恨みも無いんだけど

ね。あんた、あの中村って男の友達かなんかかい?だっ

たら悪いこた言わないよあんな無責任な男とは縁を切っ

た方が良いよ」 ここから始まって坂田和彦は、結局

一時間余りこの老婆の愚痴を聞かされる羽目になった

要約するとこんな事だった。どうやら中村は、金融業

者それもかなり質の悪い連中から借金をしてたらしい

アパートの家賃も滞納するぐらいだから当然その金融

業者の借金も返せず挙句の果てに踏み倒しにかかった

らしいのだが、その方法が仮病で救急車を呼び出すと

言うものだった。病院に運ばれたその後は病院から逃

げ出し今は行方不明らしいのだ。

 

「あたしゃ、大家をもうそれこそ何十年とやって来て

るけど初めてだよ。あんな無責任な間借り人は、家賃

は払わないは借金は踏み倒すはおまけに親からも勘当

されたって言うじゃないか」

 

 たまりにたまった愚痴を散々聞かされ、ほうほうの

体で坂田は大家の家を後にした。結局、滞納したアパ

ートの家賃と闇金の借金は中村の母親が肩代わりした

らしい

のだが、これは後に亭主に黙って家の金を使ったのがば

れて中村の母親は離婚されると言う羽目に成ったらしい。

坂田は、実家に帰る道すがら沈鬱な気持で歩いていた。

中村がこんな事になったのは、奴のいい加減さもあった

かも知れないがその引き金になったのがあの仮想通貨に

」あったような気がしてならない坂田であった。

仮想通貨の高騰は坂田もテレビのニュース等で知ってい

たのだが、それ故にあの時居酒屋で軽く仮想通貨をやろ

うかなどという事を自分が言わなければここまでの事に

はなっていなかったかもしれないのだ。仮想通貨で一発

当てようとした挙句大損をしてしまった友だちが今はた

だ生きててくれれば良いがと、それのみを望む坂田では

あった。いつの間にか降り出した雨が本降ぶりになりか

けていた。坂田はもうすでに肩をぐっしょり濡していた

が、雨を落としている天空の雲をいっときじっと睨んで

しかしすぐ顔を前に向き直して雨にけぶる銀杏並木の通

りを駆け抜けて行った。その姿は、降りしきる雨がすぐ

に消してしまって、今はもう跡形も無くなり道路に当た

った雫がまるで生き物の様に飛び跳ねているばかりであ

った。