星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 4 ~


 

 彼女を渋谷のスクランブル交差点で見かけてから1

週間が経っていた。部屋の鍵は防犯用の二重鍵に変え

たので、侵入される不安は解消したのだが、どうにも

腑に落ちない疑問は解消するどころかむしろ僕の胸の

中で、まるで悪性の腫瘍の様に日に日に膨らんで行っ

た。それで、僕は自分でも驚いているのだが、かなり

思い切った行動に出ることにした。


「確か、この辺だったよな」


 次の休みの日、僕は彼女が勤めている探偵事務所が

入っているあのビルの前に立っていた。あの時は、彼

女を追いかけるのが精いっぱいで、建物を見る余裕は

無かったが今日改めて見てみると意外と古いビルだと

思った。壁にある顔の皺のように見えるクラックが、

それをさらに強調しているみたいだ。ここで、一つ断

っておきたいのだが、僕がここに来た理由は純粋に部

屋に侵入した犯人探しが目的であって、このことを理

由に彼女とお近づきになりたいとか、ましてや交際し

ようなどと、そんな不謹慎な考えは一切無い訳で・・

・まっ、まあそんな事はどうでも良い話で、兎に角僕

は探偵事務所のドアをノックした。


「いらっしゃいませ」


 彼女は、お辞儀をしながらそう言って顔を挙げると

予想通りの言葉を僕に投げかけた。


「あら、貴方どうしてここに?」


 彼女は、ちょっとビックリした顔で言ったが、彼女

の後ろのデスクに坐っていた。中年の男性が口をはさ

んできた。


「何だ、君たち知り合いか?」


 応接室に通された僕はこれまでの経緯を包み隠さず

正直に話した。彼女に駅で助けて貰って、その後僕の

部屋で侵入事件が起こった事、偶然町で彼女を見かけ

て、好奇心からストーカーまがいに後を尾けてしまっ

た事など、流石にこの話の時には、彼女の眉間に立て

皴が刻まれたが、直ぐ「困った人ね」と言いながら笑

って許してくれた。


「そうですか、いや散々な目にあわれましたな、まあ

それでもうちの事務所の所員が役に立ったのであれば

幸いでしたな」


 さっき渡された名刺で、この中年の男性が探偵事務

所の所長であることが解ったのだが、何とも風采のパ

ットしない男だった。人を見た目で判断してはいけな

い所だが彼女とのぱっと見の落差があまりに大きかっ

たので、ついそんな事を考えてしまっていたら、コー

ヒーの良い香りが僕の鼻腔をくすぐって来た。


「コーヒー良かったらどうぞ」


 彼女がコーヒーをテーブルの上に丁寧に置きながら

言った。


「あっどうも、いただきます」


 僕は、コーヒーを飲みながらチラッと彼女を見た。

胸もとの名札に眼が行って少し驚いた。そこに田崎ゆ

かりと書かれていたからだ。


「何だよ、所長と同じ苗字、という事は二人は父娘か

?」


 心の中でそう思った僕に目ざとい彼女は直ぐに反応

して来てこう言って来た。


「今、名札を見て所長と私が父娘じゃないかと疑った

でしょ」


「あっ、いや別に・・・」


 ズバリ言い当てられてドギマギしている僕に所長が

助け舟を出してくれた。


「いや、よく間違えられるんですが父娘じゃ無いんです

よ。まあでも当たらずとも遠からずというやつで、この

娘は私の兄の娘でして姪っ子になります。幼い頃に両親

を交通事故で亡くしたもんで、以来私の家でひき取った

というわけですな、まあ父娘みたいな感じではあります

よ」


 そこまで、所長が言うと彼女が細くて長い指を差し出

し僕と所長の前に突き出して言った。


「はい、私の身の上話はそこまでよ。ここからは仕事の

話をしましょうね」


 所長も、少し喋り過ぎたと思ったのか出されたコーヒ

ーをぐっと一口飲むと、顔を引き締めてからおもむろに

話し出した・・・。

 

 とっ、すいません、突然なんですがここで僕の自己紹

介をします。名前は結城直哉と言います。結婚はまだし

ていません。余計な事ですがつき合っている人も居ない

です。仕事は都内の某お菓子メーカーに勤めていまし

て、自分で言うのも何ですがまあ、真面目だけが取り柄

みたいな平凡な男です。そんな僕に、今度のドラマのよ

うな出来事が起きて正直面くらっているのですが・・・

はい、では話を探偵事務所に戻します。

 

「それで、結城さん今日はどういったご用件で当事務所

に来られたのでしょうか?」

 

 田崎所長の眼を視ながら僕はゆっくりとでも真剣に話

し出した。


「実は、単刀直入に言いますと僕の部屋に侵入した犯人

をこちらの事務所で捜して貰えないかという事です」

 

 その言葉を聞いていた田崎所長は、暫く腕組みをしな

がら眼をつぶって何か考えていたが、その閉じていた眼

をゆっくり開けると僕にこう言った。

 

「結城さん、その依頼はうちの事務所ではできません残

念ながらお断りいたします」


「えっ!」


 僕は、思いもよらない答えが返って来た事で言葉を失

い、ただ彼女と田崎所長を交互に見るのが精いっぱいだ

った。