星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 9 ~

 


 映画館の中は日曜日という事もあって、ほぼ

満席状態だった。上映時間になり照明が落とさ

れ暗さに眼が慣れた頃、僕は買っておいたコー

ラを飲んだ。出来るだけ音をたてずに由香里さ

んの映画鑑賞の邪魔にならない様に、少しだけ

気を使った。由香里さんが選んだ作品は、以前

二人で見たリーアム・ニーソン主演の96時間で,

その続編と完結編の3本だった。映画好きを自

称する僕だけど、3本一気に見たらさすがに疲れ

た。でも、彼女は満足したようで映画館を出る

ときの軽い足取りで解った。それが少し嬉しか

った。外に出ると町の喧騒は相変わらずで、静

かになる夜にはまだまだ時間があるようだった。


「ご免なさい、私のわがままに附き合わせて疲

れたでしょ」


 映画館を出るなり由香里さんが言った。


「いや、全然逆に楽しかったよ」


 僕は、半分本当のことを言った。


「ほんとに?でも今日は一緒につき合ってくれ

たお礼に夕食は私が奢るわ、何か美味しいもの

でも食べに行きましょ」


 彼女に頷きながらも奢って貰うつもりはさら

さらなかった。僕はこう見えても九州男児の端

くれだ。九州の男は女性をデートに誘ったらお

金は全額持つと言うのが普通だ、少なくとも親

父からはそう聞かされていた。でも、彼女が今

日のこれをデートだと思っているかは微妙に疑

問だった。誘ったのは僕じゃなく彼女の方だっ

たから、でも僕としてはそんな事はどうでもよ

かった。何より由香里さんとこんなふうに街を

歩けるのが何より楽しかった。しばらく、二人

何のあてもなく歩いていたが由香里さんがポツ

リとつぶやいた。


「何にも、聞かないんですね」


 由香里さんが何を言いたいのか僕には解っ

ていたけど、わざととぼけて見せた。


「えっ、何の事?」


 ここは、変に詮索するより彼女が心にため込

んでいる物を吐き出させる方が良いと僕なりに

判断して、そう言ったのだがその時視線の先に

ラーメン屋の看板が見えた。


「結城さん、あそこに入らない?」


 と、彼女が顎をしゃくるように合図をした。


「だね、」


 ドアを開けると、豚骨ラーメンの良い匂いが店

内に漂っている。一番隅があいていたのでそこに

僕たちは陣取った。出来上がったラーメンが来る

と僕たちは話す事なく食べることに集中した。店

のざわめきと、時折り麺をすする音だけが聞こえ

ている。食べ終わると、由香里さんは満足と言う

顔を僕に向け話しかけてきた。


「ねっ、結城さん私の話聞いてくれる?」


 僕は、頷きながらもこう答えた。


「良いんだけど、話をするんだったら場所変えよ

うか店も混んで来たし、落ち着かないから」


 渋谷の高層ビルが建ち並ぶ中にポツンとそこだ

けまるでタイムスリップしたかの様な場所がある。

そこが、金王八幡宮である。山門をくぐると正面

に本殿が見える。本殿の左右には樹齢五百年は経

っていると思われる立派な銀杏の木が着飾った淑

女の様に黄金色の葉を風に揺らしていた。僕達は、

両の手を清め、神様への挨拶を済ますと社務所

それぞれお守りを一個づつ求めた。それから、彼

女の話を聞いた。


「・・・・・」


 中々,喋り出さない彼女を見ててこちらから何

か言おうかと思っていたら、やっと由香里さんが

口を開いてくれた。


「私、今まであんなこと一度もなかった」


「えっ」


「人前で泣くなんて、さっき映画館でもその事を

ずっと考えてたんだけど解らなかった。自分の感

情をコントロールするのは割と得意だと思ってい

たんだけど、ねえ結城さんはどう思う」


 急にこちらに振られたけど返事のしようがなく

て僕が黙っていたら由香里さんも察してくれて話

の続きを始めた。


「そうよね、こんな事突然聞かれても私が解らな

いことを結城さんに、その答えを求めても無理な

話だって頭では理解してるんだけど」


 二人の間で少しの時間沈黙が流れ、神社の境内

に夕暮が降りて来て辺りが薄暗くなり始めたのが

感じられた。由香里さんが、小さいクシャミをし

たので僕は自分の着ていたブレザーを脱いで彼女

に着せ掛けた。由香里さんは、ブレザーの端っこ

をつまんでじっと見つめていたが、ポツリとつぶ

やいた。


「これかな?もしかして・・・」


 秋風が木々の枝葉を揺らし彼女の言葉が、よく

聞き取れなかった。


「うん?何」


 由香里さんは、山門を指差しながら言った。


「もう暗くなって来たし、おまけに寒いし帰り

ましょ」


 さっきまでの元気の無い由香里さんは、どこ

かに消えていつもの彼女が戻って来ていた。僕

は理由は解らないけど、それが何となく嬉しい

と感じる自分がいるのを不思議だなと思いなが

ら、すぐに彼女の後を追って神社を後にした。

誰も居なくなった境内は、少しづつ暗くなり始

社務所の明かりが灯されいつもの静寂がこの

辺り一帯を包み始めていた。