星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 10 ~

 


 危険に遭遇したときの恐怖をあらゆる動物は、

もっと肌で感じ想像して行動すべきである。底

無し沼に落ちてしまった森の小鹿を、誰も助け

てはくれないのだ。ただ沼に足を踏みこんでし

まった自分の軽率さを呪いながら泥の中に沈ん

でいくだけしかないのだから・・・

 

「おい、聞こえてるか?」


 言われて、由香里はすぐに返事を返した。


「そんなに大きな声で言わなくっても聞こえ

てるわよ、伯父さん」


 その、返事を聞きながら田崎所長はいつも

の倍は苦虫を噛み潰していた。

 

「由香里、事務所じゃ伯父さんと呼ぶなと言

っているだろう。所長と呼べ所長と、それよ

りも例の大木さんの浮気調査は、進んでいる

のか?」

 

 田崎所長は、胸のポケットから煙草の箱を

取り出しながら言った。間髪入れず由香里が

答えた。

 

「もちろん、私の仕事に抜かりはないわよ。

後は証拠固めの浮気現場の決定的な写真が

取れたら完璧なんだけど。もう二、三日は

掛かりそうね。それよりも、伯父さん事務

所は禁煙ってこの間決めたでしょ。タバコ

吸うんだったら外で吸ってよね」

 

 さわやかさを少し通り過ぎて寒いくらい

の秋風の中、田崎は屋上で煙草を吹かしな

がら、姪の由香里の事を考えていた。弟夫

婦を交通事故で亡くしてから、あれを引き

取り今日まで自分たち夫婦で育てて来た訳

だが、まあ自分で言うのも何だがいい娘に

育ってくれたと思っている。それは解って

いるのだが、いささか元気に育ち過ぎの所

は逆に心配の種でもあった。由香里が大学

を卒業する頃に私は、長年勤めた警察を辞

めることになってしまった。そのせいかど

うか解らないが由香里は、内定が決まって

いた銀行を蹴って、私がなけなしの退職金

をはたいて始めた探偵事務所を手伝うと言

い出した。当然、反対したがその時には銀

行の内定を断っていたので後の祭り、なし

崩し的にこの事務所で働くことになってし

まった。反対の理由はもちろん危険だから

だ。私は警察の仕事柄、知らず知らず人の

恨みを買う事もあった。たいていは逆恨み

ではあったが、この探偵稼業も似たり寄っ

たりで、そんな仕事をさせるなんてとんで

もない話なのだ。あの娘には、普通にOLで

働いて普通に結婚してもらいたいと、考え

ていたのだ。それが、弟夫婦の願いだとも

感じていたのだが、世の中思い通りになら

ないものだと煙草の吸殻を靴でもみ消しな

がら田崎は思っていた。「そろそろ、事務

所に戻るか」知らず独り言が出て来るのを

苦笑いしながら屋上から事務所に戻ると由

香里は電話の応対の最中だった。

 

「はい、そうですね。はい、解りました。

伯父が帰ってきたら早速相談してみます。

じゃあ、また後ほど」

 

 由香里は、受話器を持ったままの姿勢で

何事か考えていたが、何かまとまったのか

戻った田崎に話を切り出した。

 

[所長、実はお願いがあるんですが」

 

 めずらしく、由香里は伯父さんとは言わ

ず所長と言った。

 

「断る!」

 

 田崎は躊躇なく答えた。

 

「まだ、何も言ってないじゃない」

 

 ふくれっ面の由香里に構わず田崎は自分

のデスクに坐った。

 

「聞かなくても解っている。お前が、そん

な言葉づかいの時はたいていろくな頼みじ

ゃ無いってな。それに、大体察しは付いて

いる。あの、結城何たらとか言う若造の件

だろう?ありゃあ、お前金が掛かり過ぎる

からって、俺はあいつの為を思って断った

んだぞ。それを、お前達二人してコソコソ

裏で動き回ってたろ。俺は、そう言うのは

嫌いなんだよ」

 

 由香里は、正面から頼んでも無理と悟っ

て搦手から攻めることにした。

 

「そうね伯父さんの言いたいことは解った

わ、でもこの探偵事務所の経営状態が、あ

んまり宜しくないことは伯父さんも解って

いるわよね。言っちゃなんだけど伯父さん

は相手の事を考え過ぎて仕事を選び過ぎて

いると思うの、今やってる浮気調査が終わ

ったらその後の仕事は入って無いし、実際

の所先月からいろいろの支払いが滞ってい

るし、それを考えたら結城さんの件を断る

のは得策じゃないと思う。それに結城さん

もタダでやってくれと言っている訳じゃ無

いんだし」

 

「・・・・・」

 

 こいつ、痛い所をついて来るな、と田崎

は思っていた。いったい誰に似たものやら

弟夫婦は二人とも大人しい性格だったし、

何となく由香里を見てると、鏡に映った自

分を見てるような気がする。「顔は、全然

違うけどな」多分、一緒に仕事をしている

内に自部の性格に似たのかと思わざる得な

かった。まあ、そこは少し嬉しい気持ちは

否めない田崎だったのだが。

 

「解ったよ、じゃあ話だけは聞いてやるよ。

で、どこまで調査は進んでいるんだ」

 

 由香里は、結城と二人でして来た事の一

部始終をできるだけ詳しく田崎に話した。

話の区切りがつくとそれまで黙って聞いて

いた田崎が口を開いた。

 

「それで、さっきの電話は何だったんだ」

 

 伯父のその言葉を聞いた由香里は、おも

むろに携帯を取り出すと番号を打ち込み通

話を押し、直ぐ切った。暫くして事務所の

ドアがノックと共に開けられた。田崎所長

がドアの方を見ると、そこには笑顔の爽やか

な一人の青年が立っていた。

 

「結城です。どうも、お久しぶりです」

 

 

 

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 9 ~

 


 映画館の中は日曜日という事もあって、ほぼ

満席状態だった。上映時間になり照明が落とさ

れ暗さに眼が慣れた頃、僕は買っておいたコー

ラを飲んだ。出来るだけ音をたてずに由香里さ

んの映画鑑賞の邪魔にならない様に、少しだけ

気を使った。由香里さんが選んだ作品は、以前

二人で見たリーアム・ニーソン主演の96時間で,

その続編と完結編の3本だった。映画好きを自

称する僕だけど、3本一気に見たらさすがに疲れ

た。でも、彼女は満足したようで映画館を出る

ときの軽い足取りで解った。それが少し嬉しか

った。外に出ると町の喧騒は相変わらずで、静

かになる夜にはまだまだ時間があるようだった。


「ご免なさい、私のわがままに附き合わせて疲

れたでしょ」


 映画館を出るなり由香里さんが言った。


「いや、全然逆に楽しかったよ」


 僕は、半分本当のことを言った。


「ほんとに?でも今日は一緒につき合ってくれ

たお礼に夕食は私が奢るわ、何か美味しいもの

でも食べに行きましょ」


 彼女に頷きながらも奢って貰うつもりはさら

さらなかった。僕はこう見えても九州男児の端

くれだ。九州の男は女性をデートに誘ったらお

金は全額持つと言うのが普通だ、少なくとも親

父からはそう聞かされていた。でも、彼女が今

日のこれをデートだと思っているかは微妙に疑

問だった。誘ったのは僕じゃなく彼女の方だっ

たから、でも僕としてはそんな事はどうでもよ

かった。何より由香里さんとこんなふうに街を

歩けるのが何より楽しかった。しばらく、二人

何のあてもなく歩いていたが由香里さんがポツ

リとつぶやいた。


「何にも、聞かないんですね」


 由香里さんが何を言いたいのか僕には解っ

ていたけど、わざととぼけて見せた。


「えっ、何の事?」


 ここは、変に詮索するより彼女が心にため込

んでいる物を吐き出させる方が良いと僕なりに

判断して、そう言ったのだがその時視線の先に

ラーメン屋の看板が見えた。


「結城さん、あそこに入らない?」


 と、彼女が顎をしゃくるように合図をした。


「だね、」


 ドアを開けると、豚骨ラーメンの良い匂いが店

内に漂っている。一番隅があいていたのでそこに

僕たちは陣取った。出来上がったラーメンが来る

と僕たちは話す事なく食べることに集中した。店

のざわめきと、時折り麺をすする音だけが聞こえ

ている。食べ終わると、由香里さんは満足と言う

顔を僕に向け話しかけてきた。


「ねっ、結城さん私の話聞いてくれる?」


 僕は、頷きながらもこう答えた。


「良いんだけど、話をするんだったら場所変えよ

うか店も混んで来たし、落ち着かないから」


 渋谷の高層ビルが建ち並ぶ中にポツンとそこだ

けまるでタイムスリップしたかの様な場所がある。

そこが、金王八幡宮である。山門をくぐると正面

に本殿が見える。本殿の左右には樹齢五百年は経

っていると思われる立派な銀杏の木が着飾った淑

女の様に黄金色の葉を風に揺らしていた。僕達は、

両の手を清め、神様への挨拶を済ますと社務所

それぞれお守りを一個づつ求めた。それから、彼

女の話を聞いた。


「・・・・・」


 中々,喋り出さない彼女を見ててこちらから何

か言おうかと思っていたら、やっと由香里さんが

口を開いてくれた。


「私、今まであんなこと一度もなかった」


「えっ」


「人前で泣くなんて、さっき映画館でもその事を

ずっと考えてたんだけど解らなかった。自分の感

情をコントロールするのは割と得意だと思ってい

たんだけど、ねえ結城さんはどう思う」


 急にこちらに振られたけど返事のしようがなく

て僕が黙っていたら由香里さんも察してくれて話

の続きを始めた。


「そうよね、こんな事突然聞かれても私が解らな

いことを結城さんに、その答えを求めても無理な

話だって頭では理解してるんだけど」


 二人の間で少しの時間沈黙が流れ、神社の境内

に夕暮が降りて来て辺りが薄暗くなり始めたのが

感じられた。由香里さんが、小さいクシャミをし

たので僕は自分の着ていたブレザーを脱いで彼女

に着せ掛けた。由香里さんは、ブレザーの端っこ

をつまんでじっと見つめていたが、ポツリとつぶ

やいた。


「これかな?もしかして・・・」


 秋風が木々の枝葉を揺らし彼女の言葉が、よく

聞き取れなかった。


「うん?何」


 由香里さんは、山門を指差しながら言った。


「もう暗くなって来たし、おまけに寒いし帰り

ましょ」


 さっきまでの元気の無い由香里さんは、どこ

かに消えていつもの彼女が戻って来ていた。僕

は理由は解らないけど、それが何となく嬉しい

と感じる自分がいるのを不思議だなと思いなが

ら、すぐに彼女の後を追って神社を後にした。

誰も居なくなった境内は、少しづつ暗くなり始

社務所の明かりが灯されいつもの静寂がこの

辺り一帯を包み始めていた。

 

 

 

 



 眼が覚めると、いつの間に帰ったのか由香里

さんの姿は無かった。彼女に掛けた筈の毛布は、

いまは僕の躰にあり、小さなメモには簡単な伝

言が綴ってあった。

 

「お世話になりました。じゃ、またね。田崎由

香里」

 

 少し、二日酔い気味だったが気分は悪くなか

った。むしろ、昨夜の出来事を思い出しては一

人にやついていた。別に特別な事は何もなかっ

たんだけど、彼女が僕の部屋に泊まったと言う

事実は大きかった。それからは、月一回のペー

スで由香里さんは僕の部屋に来るのが日課にな

って居た。録画内容をチェックすると言うのは、

表向きの理由で、これは後になって解った事だ

が、実は彼女相当な映画好きだったみたいで、

録画の方は、早回しでさっさと見てしまうと、

何のことは無いその後は映画鑑賞会に早変わり

していた。そんな事が続いて2カ月が過ぎた頃、

変化は急にやって来た。


「これは、間違いないかも知れないわね」


 由香里さんは、いつになく真剣な表情で言っ

た。今日は、いつも由香里さんが来る月末では

なかったが緊急事態という事で、僕が呼んだの

だった。実は、いつもの様に一週間分をまとめ

て見ていたのだが、録画の再生が始まって間も

なくアパートの廊下にあの男が映っていた。最

初は、アパートの住人かと思ったのだが様子が

どうもおかしい、僕の部屋を通り過ぎたかと思

えば又、やってきてドアの前で中の様子を窺っ

て居る様なのだ。それと、時間帯が深夜一時過

ぎなのも怪しさを助長していた。

 

「それで、他の曜日は?」

 

 僕は、静止状態を解除して火曜、水曜と彼女

に見せたが、次にその男が現れたのは木曜日の

やはり深夜だった。金、土も映っておらず録画

はそこで終わった。


「月曜と木曜か、バイトか仕事の休みがその翌

日かも知れないわね。それか、単に用心して間

をあけたのかも知れない」


 由香里さんは、僕の眼をじっと見据えながら

言った。僕も何か言おうとしたけど彼女の声が

それを遮った。


「とにかく、もう少し待ちましょうか二回位じ

ゃ、この男が犯人と断定するのに早過ぎるよう

な気がする」


「そうだね、僕もその方が良いと思う」


 そう彼女に言いながら僕はちょっとドキドキ

していた。実は由香里さんとこんな感じにつき

合い?だしてから二ヶ月が経ったのだが、僕は

今日思い切って彼女をデートに誘うつもりだっ

た。だが、そのきっかけが掴めないまま由香里

さんは帰り支度をし始めていた。今日も無理か

なと内心諦めて、彼女を見送ろうしていた矢先、

彼女が僕に言った。


「結城さん、次の日曜日空いてる、?もし暇な

ら私につき合ってくれない天気も良さそうだし」


 勿論、異論のある筈も無くあっさりと僕の人

生初デートはいつものように彼女のリードで決

まってしまった。

 日曜日は、これ以上ない快晴で、かなりベタ

だと思ったけど渋谷のハチ公前で彼女と待ち合

わせた。ちょっと早すぎるかなと思ったけど約

束の時間の三十分前には着いていた。何をする

ことも無いので人の流れをぼんやりと眺めてい

たら、いろんな思いが頭の中をよぎって行った。

故郷の両親それに友だち、大学を卒業して今の

会社に入ってからの出来事そういう諸々の事が

なぜか愛おしく感じられ、とくに由香里さんと

出会えたことは、僕にとっては思いっきり特別

な事だった。


「何、一人で黄昏てるんですか?」


 いつの間に、来たのか由香里さんが肩から下

げたショルダーバッグを脇に携えて、腕組みを

しながら立っていた。その立ち姿を見て、相変

わらずスタイルが良いなと思った。僕の身長は

175センチだけど、一緒にならんでも彼女の

目線は僕とあまり変わらない、まあハイヒール

を履いているのを差し引いても170センチは

あるとみている。その高身長をさらに映えさせ

る今日のファッションだった。上はボーダー柄

の袖が幾分短い襟なしのシャツ、下はベージュ

色のパンツ、ベルトの代わりのサテンのリボン

がまたかわいさを倍増させていた。そんな、フ

ァッションチェックを僕がしていたら彼女が言

った。


「そんなに、じろじろ見られたら恥ずかしいわ、

何か私の服についてる?」


 由香里さんは、首を回して肩のあたりを見る

しぐさをして見せた。


「あっ、いやゴメン別に何も付いてないよ。そ

れより、今日は何処に行く?」


「それは、もう決めてあるの私について来て」


 そう言うと、由香里さんは踵を返してさっさ

と歩きだした。僕はあわてて彼女の後を追った。

いつもながら彼女には、リードされっぱなしだ。

しばらく歩くと渋谷ロフトが見えて来た。しか

し由香里さんが向かっているのは、雑貨なら何

でもそろう渋谷ロフトではなく、その向い側の

渋谷シネパレスと言う割とこじんまりとした映

画館だった。館内に入って由香里さんは、真っ

先に上映時間が書いてあるパネルの前に立ち、

じっと見つめていたがしばらくして口を開いた。


「残念、早くつき過ぎたみたい2回目の上映時

間が11時半になっているわね、今10時だからど

っかで時間を潰さないと」


「じゃあ、ここに来る途中にカフェがあったか

らそこでどうだろう」


 由香里さんがオッケーのサインを出したので、

僕達はそこに向かう事になった。カフェの席に

着いた後、僕はメニューを見ながら彼女に言っ

た」


「僕は、コーヒーだけど由香里さんは何を頼む

?」


 そう彼女に聞いて顔を上げて、僕は唖然とし

てしまった。由香里さんが泣いていたからだ。

両方の眼から、大粒の涙がポロポロ後からあと

から流れていた。僕は訳が解らず思わず心の中

で叫んでしまった。

 

「えーっ、このタイミングで泣く?えっ、えっ、

えー何で、何でだよー」

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 7 ~


 

 「この世界に存在するのは、老化と風化だけだ。

時間があるように感じるのは錯覚に過ぎないのだ

が、困ったことに人間にとってこの錯覚がないと

非常に生きづらいと言うのもまた、事実なのであ

る」

 

 あの衝撃的な夜から一カ月が過ぎていた。監視

カメラの画像は一週間分を週末にまとめて視てい

る。今のところ、それらしい画像は映っていなか

った。今夜も、ビールを飲みながらいつものよう

に録画チェックをしていたら傍らの携帯が鳴った。

 

「もしもし、結城さん?」

 

 僕の耳に聞きおぼえのある声が聞こえてきた、

声の主はすぐ解った。

 

「あっ、由香里さん何かありました?」

 

「いいえ、実は仕事で結城さんのアパートの近

所まで来たので監視カメラの録画がどうなって

いるか気になったので、良かったら今から結城

さんの所にお邪魔して見せてもらおかなと思っ

て」

 

 僕は、正直とまどっていた。女の人を部屋に

入れるなんて初めての事だったので、つい黙っ

てしまった。その沈黙に気づいた彼女が言った。

 

「あの、迷惑だったらこのまま帰りますけど・

・・」

 

 ハッとして、僕はすぐに返事をした。

 

「いや、迷惑だなんてとんでもない。ただ部屋

が散らかっているので恥ずかしいなって思って」


 それからが、大変だった。十五分ほどで彼女

が部屋に来るという事なので、大慌てで掃除を

した。由香里さんがインターホンを押すタイミ

ングで何とか終わらせる事が出来たのでホッと

した。

 

「ごめんなさいね、突然お邪魔して」

 

 由香里さんは屈託のない笑顔で片手に持って

いた大きめのコンビニのビニール袋を降ろしな

がらそう言った。

 

「いや、ちょうどタイミング的には良かったで

す。今から今週分の録画を見る所だったので」

 

 冷蔵庫からコーラを取り出し日頃、僕が食事

をとっている折り畳み式の小さなテーブルにコ

ップと一緒に置いた。由香里さんと向かい合わ

せになる格好で僕たちは監視カメラの録画を見

る事になった。何の、変哲もない廊下を映して

いる画像を二人で見ているって、何かヘンテコ

な気分だった。半分ほど終わったところで、由

香里さんは、それまで食い入るように見ていた

視線を僕の方に向けるとようやく口を開いた。

 

「やっぱり、まだ動きは無いようね。あれから

一カ月経ったから、もうそろそろかなって思っ

たんだけど」

 

 僕も、それには同感だったので彼女に頷き返

した。こう何の動きもないと何だか肩透かしを

食らったみたいに、待ち人来たらずのおみくじ

を神社で引いてしまった気分だ。後半は、早回

しで見たので五分もかからず録画は終わった。

 

「これは、中々の長期戦になるかも知れないわ

ね」

 

 「そうだね」と答えながら僕は全然別の事を

考えていた。仮にも男性の部屋に入ってるのに

彼女のこの警戒心の無さはどうだろう。例えれ

ば、同性の部屋にいるような感覚で振舞ってい

る彼女を見ながらこれはどう考えたらいいのだ

ろうか?などと言う様な事を僕は考えていたが、

由香里さんの興味は僕の部屋に移ったらしく色

々と観察し始めていた。

 

「これは結城さんのコレクション?」

 

 彼女が見ているのは、僕がこれまで集めた映

画のDVDを納めた三段くらいある白いカラー

ボックスだった。

 

「そう、今まで見てきた映画のお気に入りのD

VDだよ」

 

 僕が、そう答えると由香里さんは映画の作品

が並べてあるカラーボックスから一本取り出し

ながら、こちらに背を向けたまま言った。

 

「ねえ結城さん、今日はこの一本を映画鑑賞し

ながらお酒を呑まない?どっちみち明日はお休

みなんでしょう」

 

 由香里さんは、持って来たビニール袋の中身

をテーブルの上に置きだした。僕は、正直言っ

て驚いていた彼女が持って来たものは6本セッ

トの350ミリ缶のビール、それとワインにお

つまみセットだった。

 

「いや、僕は全然構わないんだけどむしろお酒

飲むのも、映画もどちらも好きだから、でも良

いのかな?俺もほら一応男だし・・・」

 

 由香里さんは、僕の眼をじっと見つめながら

缶ビールを取りだすと、プルトップを引き上げ

ながら言った。

 

「大丈夫、結城さんが女性の意に反して理不尽

な事をする人では無い事は解っているつもりよ。

さあ、そんな事言ってないで始めましょ」

 

 何だか、貴方は人畜無害だから大丈夫と言わ

れている様で釈然としない気持ちはあったが、

全然予期してなかった由香里さんとの酒盛りと

映画鑑賞は、内心大歓迎の僕だった。彼女が選

んだのは、リーアム・ニーソン主演の96時間と

言う93分程の長さの作品だった。テンポが速い

作りなのと映画の面白さも相まって時間を忘れ、

あっという間に見終わってしまった。映画が終

わると、テレビの画面を夢中で観ていた由香里

さんが、僕の方を向いて言った。

 

「で、結城さんに聞きたいんだけど今試してい

る事が上手くいって犯人の所在が解ったその後

はどうするか考えているのかしら?」

 

 由香里さんは、少し頬を赤らめた顔で僕に聞

いてきたが、その手に持っているコップの中身

は、麦色のビールから葡萄色の赤いワインに変

わっていた。

 

「うーん、正直そこまでは考えていないかな、

どう言う理由で僕の部屋に侵入したのか聞きた

い気持ちは強いけどね」

 

 返事をして、彼女の顔を見たら潤んだ瞳で僕

を見ている。ドキッとする程、魅力的な眼差し

だった。いくら僕が、人畜無害と言ってもこん

な眼を向けられたら流石に男の本能がむっくり

と起き上がるのを感じていた。酒のせいもある

かも知れなかった。これはまずいと思う心と、

これは二度とないチャンスだぞ、何て囁く天使

と悪魔のせめぎ合いが僕の中で起きているのを

知ってか知らずか彼女が呑気に答えた。

 

「ふーん、そうなのね・・・」


 僕は、由香里さんの返事を聞きながらビール

の入ったコップをテーブルに置き、レコーダー

からDVDを取り出し振り向きざまに彼女に言

った。

 

「由香里さん、もうそろそろ帰らないと終電に

間に合わなくな・・・えっ!」

 

 彼女は、寝ていた。静かな寝息が、僕の鼓膜

にまるで音楽の様に心地よく響いていた。

 

「マジかよ・・・」

 

 取り敢えず、風邪を引かない様に由香里さん

に毛布を掛けてあげたけど、彼女が余りに気持

ち良さそうに寝ているので、起こそうかどうす

るか迷っている間に時だけがダラダラと過ぎて

しまい、そうこうしている間に終電に、間に合

わない時間になってしまっていた。遠くで、救

急車のサイレンの音が聞こえている。その音に

合わせるかの様に、近所の犬の「ウオォーン」

と吠える遠吠えが聞こえる。サイレンの音は遠

くになるに連れ次第に聞こえなくなり、犬もい

つの間にか鳴きやんでいた。やがてあたりに静

寂が戻り闇が急に濃くなり始め、気もそぞろな

僕の夜はしんしんと更けて行った。

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 6 ~



「ヴィーン、ガッ、ガッ、ガッ」

 勢いよく充電式の電動ドライバーが台座を固定して

行く、彼女、いや由香里さんに教えられたとおりに隠

しカメラを出来るだけ目立たない所それでいて廊下全

体をカバー出来る場所に二カ所取り付けた。勿論、大

家さんには防犯という事で許可は取ってある。


「よし、これで固定は完了だな」


 最後の仕上げに、不自然な感じじゃなく壁と同じ色

合いのカメラのレンズ部分だけ小さな穴を開けた板を

取り付けた。流石に、昼間は少し目立つけれど由香里

さん曰く「犯人は、私が思うに目立つ昼間は現れない

と思う、必ず人気の少ない夜に来る筈だからこの方法

でオッケー」である。結局、諦めかけた僕に彼女が薦

めたのがこの方法だった。カメラで暫く監視してもし

犯人らしき奴が現れたらその時点で犯人の行動パター

ンを分析し、その次に現れるであろう曜日と時間を予

測して張り込む、犯人が現れたら、後を追う、そこで

犯人の身辺調査をするというものだった。


「ね、これなら費用もカメラと録画機材ぐらいなもの

だから、そんなに無理しなくても出来るでしょ」


 いつもながら彼女には感心させられるが一抹の不安

がない訳ではなかった。その、思いがつい口に出てし

まった。

「でも、それって犯人の懐に入るって事でしょ。そい

つが凶悪な犯罪者だったら結構危ない橋を渡るように

思えるけど・・・」

 

「大丈夫、痩せても枯れてもわたしは探偵のプロよ危

険の回避方法ぐらいは解ってるつもりよ」

 

 僕の心配をよそに由香里さんは、自信たっぷりに不

安を吹き飛ばす勢いで告げた。僕は、由香里さんの自

信の源をそれから程なくして自分の眼で見る事になる

のであるが、僕達は、その日の夕方彼女の提案した作

戦を実行に移す為、防犯グッズのショップを訪れてい

た。


「そうね、カメラはこの程度で良いと思う。これは解

像度もヤバイ位あるし、感度も調節できるから夜間の

撮影にはピッタシ」


「感度?、調節・・・?」


 僕は、映画を見るのは大好きなんだけど撮影とかカ

メラには全く興味がなく、従って彼女の説明も半分解

って残り半分解らない状態だった。由香里さんはそん

な僕に解りやすく説明してくれた。


「つまり、普通夜間の撮影には照明を使うんだけど、

この場合そんな事をしたら犯人に逃げられてしまうで

しょ。だから、出来るだけカメラのレンズは明るい方

が良いの、例えば、街灯の光程度ででも昼間のように

撮影出来るとか、そんな感じ」


 いつもながら由香里さんの説明は簡潔で解りやすい

と思った。作戦を実行するための機材を手に入れた僕

達は、少し小腹が空いたのでサンドイッチでも買おう

と近くのコンビニ向かう事にしたのだが、僕は、依然

そのコンビニで嫌な思いをした事があったので、本心

は行きたく無かったのだけれど、まあ、今日は大丈夫

だろうと思って、歩いていた。だが、コンビニの店内

を照らす照明が見え始めた時、悪い予感が当たったと

思った。そいつらは、この前と同じくコンビニの入り

口付近でウンチスタイルで陣取っていた。


「由香里さん、別の店にしませんか?」


 どうして、と言う顔をした彼女は僕の言葉が聞こえ

なかった様にコンビニのの入り口に向って歩いて行っ

た。そして陣取っているそいつらの前まで来ると、僕

が止める間もなく彼女は言った。


「君たち、お店に入るのに邪魔だからどきなさい」


 由香里さんの声は当然聞こえている筈だが、そこに

たむろしている四、五人のチンピラ、と言っても多分

高校生だと思うが全然意に介さない風で、彼女の声を

無視する様に自分たちのお喋りを続けていた。


「聞こえないの、邪魔だって言ってるのよ」


 僕は、事の成り行きに内心ハラハラしていた。由香

里さんの勢いは止まらないし、このままだと嫌な展開

の悪い予感しかしなかった。そうこうして居る内に、

連中の中で一番眼つきの悪い奴が、彼女をニヤニヤし

た顔で見返すと言った。


「通りたかったら、俺らを避けて行けよ」


 そう言われたら、普通ビビッて退散するものだが・

・・。恥ずかしい話、先日これと同じ状況だった僕は

関わり合いになるのが嫌で逃げたことがあった。しか

し、彼女は違っていた。そんな奴らに対して言い放っ

たのである。


「解った、じゃあお店の人を呼ぶけど良いの事が大袈

裟になるわよ」


 あの、眼つきの悪い奴がいきなり立ち上がった。身

長180センチはあるだろうか上背がかなりある、そい

つが彼女を見下ろしながら言った。


「言えば、どうせ誰も出て来ないと思うよ、あの店員

二人共俺らのダチだもん」


 言われてみれば、その通りだと思った。僕と彼女が

コンビニの中の店員を見ると、笑いながらこっちを見

ている。が、出てくる気配がない店の前で結構な騒ぎ

になって居るのだから普通「どうしたんですか?」く

らい言って対応する筈だが、それもやらないという事

は残念だけど、あいつの言っていることは本当のよう

だ。僕は、最悪の状況になる前にここから退散しよう

と彼女の手をつかもうとした。


「じゃあ、仕方がないわね。警察を呼ぶわよ」


 由香里さんは、僕が手をつかむより早く携帯を出し

た。しかし、素早い行動に出たのは上背のある眼つき

の悪いあの男だった。彼女の手から携帯をもぎ取ると

いきなり走り出した。すかさず由香里さんも後を追い

かけて走って行く、あんまり気は進まなかったが事の

成り行き上、僕も後を追わない訳にはいかなかった。

逃げた奴の仲間も当然後ろをついて来ていた。やっと、

二人に追いついたのは人気の全く無い公園だった。彼

女はと言えば、逃げたあの男と睨み合っていた。


「君、ふざけた真似しないで携帯を返しなさい、そう

したら今回は見逃してあげるから」


 携帯を返すでもなく眼つきの悪い男は、手の中で彼

女の携帯を弄びながらニヤニヤした顔で言った。

 

「そんなに、これが返して欲しければ力ずくで取り返

せよ」

 

 とんでもない事になりそうなこの状況で、一つだけ

決めていることを心の中で僕は確認していた。自慢じ

ゃないが喧嘩はからっきしだけれど、もし由香里さん

が危機的状況になったらどんな手を使っても彼女を助

けるという事を・・・

 

「おい、その間抜けずらを手が出せない様にしとけ、

今から彼氏の眼の前でゆっくりこの生意気女を可愛が

ってやるからよ」

 

 眼つきの悪い男は、高校生とはとても思えないよう

な言葉を歩みを進めながら喋った。と、同時に三人か

ら羽交い絞めされ身動き出来なくされてしまった。

 

「何だよ、離せお前ら」

 

 僕が、叫んだのとボディに重いパンチを受けたのは

同じタイミングだった。

 

「そこで、お前の彼女と俺が楽しむのをゆっくり見物

しときなよ、なあ・」

 

 その瞬間!由香里さんの長い足が思いっきり伸び上

がって、彼女の方に振り返った眼つきの悪い男の顔面

に見事にヒット、男は吹っ飛んでいった。まるで明晰

夢を見ている様にこれは現実?いや、いや、こんな事

あり得ない絶対に夢だろう。と、思ってしまうほどの

光景に見えた。

 

「どう、君たちもやる?」

 

 僕を、羽交い絞めにしてた三人は完全にノックダウ

ンしてぶっ倒れている男と、身構えて腰を落とした姿

勢で、伸ばした長い腕の先の指をまるで、ブルース・

リーみたいに敵に対してカモンとする様に手前に曲げ

て見せている彼女に恐れをなしたのか、僕を突き飛ば

して公園から逃げ出して行った。

 

「何だ、口程にもない奴らね」

 

 そう言うと、由香里さんは落ちている携帯を拾いな

がら近づいて来て僕を抱きかかえ起してくれた。

 

「ありがとう、君に助けられるのはこれで二度目だね」

 

 彼女は、無言のまま僕に肩を貸して歩き出した。


「話は後、連中が仲間を連れて戻って来る前に早くこ

こから逃げなきゃ」

 

 僕は、自分の不甲斐なさを噛みしめながらも、かな

り過激にみえる彼女の機敏な行動力に、パンチを貰っ

た腹の痛みは今はもうどこかに消えてしまっていた。

そのかわりに彼女に対して別の感情がもくもくと入道

雲の様に湧き上がるのを感じていた。か弱い女に肩を

貸して貰って足をひきづって歩いている情けない男と、

女の二人連れの姿はしばらく見えていたが、すぐに夜

の闇に紛れて見えなくなった。例の高校生たちが仲間

の何人かを引き連れて帰って来た時には、二人の姿は

影も形も無かった様に消えていた。

 

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「ねえ、聞いてます?」


 そう言われて、僕はハッとして彼女の眼を視てみた。

実は依頼した件を断られた後その理由を田崎所長が説明

してくれたのだが、それがあまりにも簡単すぎて僕は納

得しなかったのだ。


「まあ、単刀直入に申しあげますとこの件に関しては金

がかかり過ぎますな」


 とっ、此れだけ言うと田崎所長は応接室から出て行っ

てしまった。見かねた彼女が、と言うか由香里さんが所

長に断ってから僕をこのカフェに連れてきたのだが、僕

としては内心喜んでいた。あの田崎所長の苦虫噛み潰し

た様な顔を見て説明を受けるよりこっちの方が数段良か

った。何だか由香里さんと疑似デートをしてるみたいで

嬉しくもあり楽しかった。と言う訳で、僕は由香里さん

の話をうわの空で聞いて彼女の今日のファッションを鑑

賞していたのだ。


「先日のラフなスタイルも良かったけど、ビシッと決め

た今日のスーツ姿も良いな・・・」


 何て事を考えて、生返事なんかしてたものだから一所

懸命に話してた彼女に怒られてしまったのだ。


「もう、真面目に聞かないんだったら私帰りますよ」


 とっ、由香里さんに真顔で言われて僕は彼女に帰られ

たら困るので慌てて返事をした。


「あっ、ごめんなさい明日ある会社の重要なプレゼンを

つい思い出したものだから」


 僕は、適当なことを言ってごまかした。頭の回転の良

い彼女の事だから先刻お見通しだとは思ったのだが・・・


それで、さっきの話の続きなんだけど叔父の事は許して

下さいね。あんなぶっきらぼうな言い方しか出来ない人

なのよ。元は警察のたたき上げの刑事だったんだけどあ

の性格が祟ってキャリア組の幹部と衝突して最終的には

警察やめる羽目に成っちゃって、今の探偵事務所を開い

たってわけ」


 ここまで、一気に喋った彼女だったが頼んでた注文品

をボーイが持ってくると話そっちのけで、そのテーブル

の上のパフェをほうばり始めた。僕も、甘い物には目が

ない方なのでご相伴に預かったのだが、彼女は満足した

のか暫くしてまた話し始めた。


「それでね、あれが叔父なりの貴方に対する誠意なのよ」


「誠意?」


 僕は、不審そうな顔をしてそう言った。


「そう、実はこの業界は結構悪質な探偵事務所が多いの、

客の足もとを見て法外な料金を要求したり、貴方なんか

の場合だと犯人が中々探せないと嘘を言って引き延ばす

だけ引き延ばして、お金を取れるだけ取ったら適当な理

由をつけて結局探せませんでしたで後はポイって感じ」


 由香里さんは、そこまで言ってから残ってたパフェを

また食べた。


「ふーん、そうなんだ」


 僕は、由香里さんの話を感心しながら聞いていた。由

香里さんは口のまわりに着いたアイスクリームを備え付

けの紙で拭き取りながら話の続きを始めた。


「だから、貴方の場合・・・」


 そこまで彼女が言った時、僕は彼女の言葉を遮って言

った。


「良かったら、名前で呼んでくれたほうが嬉しいんだけ

ど」


 由香里さんは、ちょっと思案するような顔をしたが、

すかさず答えてくれた。


「解った、これからはあなたの事を結城さんてよばさせ

て貰います。じゃあ、さっきの続きなんだけど仮にこの

仕事を引受けたとして、どのくらいの費用が掛かると思

う?」


 僕は、よく映画の中でアメリカ人がやる様に両手を左

右に広げて少しふざけた感じで肩をすくめて見せた。


「そうよね、見当つかないと思うけど浮気調査を例にと

ってみましょうか、大体の総費用が十万から十五万円、

調査が長引いた場合それ以上になる事もあるし逆に思っ

た程時間が掛からなかった場合、安くなる事もある。

まあ、滅多にないけどね」


僕は彼女の話を聞きながら、まあここまでは想定内だ

なと思っていた。由香里さんはと言うと喋り過ぎて喉

が渇いたのかコップの水を一気に飲み干した後、また

話し始めた。


「本題を結城さんに戻すわね、さっき言った浮気調査

はターゲットが決まっているから調査もやり易いし、

調査期間もマニュアル通りに出来るけど結城さんの場

合は、そう簡単には行かないと思うの、何より犯人が

どこの誰とも解らないし、いつ現れるか見当も付かな

い状態で現場に張り付いて犯人が現れるのを待つなん

て到底現実的じゃないし、費用なんてとんでもない額

になってしまうに違いないわ、とても個人レベルで出

来る話じゃないと思うの」


 そこまで、話を聞いて僕は最初の勢いは何処へやら

流石に気持ちが萎えてボソッと呟くように言った。


「やっぱり、諦めるしか無いか」


 
 僕の、意気消沈した言葉を聞いていた彼女がまるで

待ってましたとばかりに言った。


「結城さん、諦めるにはまだ早いと思う」


 そう言うと、彼女はいたずらっ子の様に僕の眼を見て

ニヤリと笑った。

 

 

 

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 彼女を渋谷のスクランブル交差点で見かけてから1

週間が経っていた。部屋の鍵は防犯用の二重鍵に変え

たので、侵入される不安は解消したのだが、どうにも

腑に落ちない疑問は解消するどころかむしろ僕の胸の

中で、まるで悪性の腫瘍の様に日に日に膨らんで行っ

た。それで、僕は自分でも驚いているのだが、かなり

思い切った行動に出ることにした。


「確か、この辺だったよな」


 次の休みの日、僕は彼女が勤めている探偵事務所が

入っているあのビルの前に立っていた。あの時は、彼

女を追いかけるのが精いっぱいで、建物を見る余裕は

無かったが今日改めて見てみると意外と古いビルだと

思った。壁にある顔の皺のように見えるクラックが、

それをさらに強調しているみたいだ。ここで、一つ断

っておきたいのだが、僕がここに来た理由は純粋に部

屋に侵入した犯人探しが目的であって、このことを理

由に彼女とお近づきになりたいとか、ましてや交際し

ようなどと、そんな不謹慎な考えは一切無い訳で・・

・まっ、まあそんな事はどうでも良い話で、兎に角僕

は探偵事務所のドアをノックした。


「いらっしゃいませ」


 彼女は、お辞儀をしながらそう言って顔を挙げると

予想通りの言葉を僕に投げかけた。


「あら、貴方どうしてここに?」


 彼女は、ちょっとビックリした顔で言ったが、彼女

の後ろのデスクに坐っていた。中年の男性が口をはさ

んできた。


「何だ、君たち知り合いか?」


 応接室に通された僕はこれまでの経緯を包み隠さず

正直に話した。彼女に駅で助けて貰って、その後僕の

部屋で侵入事件が起こった事、偶然町で彼女を見かけ

て、好奇心からストーカーまがいに後を尾けてしまっ

た事など、流石にこの話の時には、彼女の眉間に立て

皴が刻まれたが、直ぐ「困った人ね」と言いながら笑

って許してくれた。


「そうですか、いや散々な目にあわれましたな、まあ

それでもうちの事務所の所員が役に立ったのであれば

幸いでしたな」


 さっき渡された名刺で、この中年の男性が探偵事務

所の所長であることが解ったのだが、何とも風采のパ

ットしない男だった。人を見た目で判断してはいけな

い所だが彼女とのぱっと見の落差があまりに大きかっ

たので、ついそんな事を考えてしまっていたら、コー

ヒーの良い香りが僕の鼻腔をくすぐって来た。


「コーヒー良かったらどうぞ」


 彼女がコーヒーをテーブルの上に丁寧に置きながら

言った。


「あっどうも、いただきます」


 僕は、コーヒーを飲みながらチラッと彼女を見た。

胸もとの名札に眼が行って少し驚いた。そこに田崎ゆ

かりと書かれていたからだ。


「何だよ、所長と同じ苗字、という事は二人は父娘か

?」


 心の中でそう思った僕に目ざとい彼女は直ぐに反応

して来てこう言って来た。


「今、名札を見て所長と私が父娘じゃないかと疑った

でしょ」


「あっ、いや別に・・・」


 ズバリ言い当てられてドギマギしている僕に所長が

助け舟を出してくれた。


「いや、よく間違えられるんですが父娘じゃ無いんです

よ。まあでも当たらずとも遠からずというやつで、この

娘は私の兄の娘でして姪っ子になります。幼い頃に両親

を交通事故で亡くしたもんで、以来私の家でひき取った

というわけですな、まあ父娘みたいな感じではあります

よ」


 そこまで、所長が言うと彼女が細くて長い指を差し出

し僕と所長の前に突き出して言った。


「はい、私の身の上話はそこまでよ。ここからは仕事の

話をしましょうね」


 所長も、少し喋り過ぎたと思ったのか出されたコーヒ

ーをぐっと一口飲むと、顔を引き締めてからおもむろに

話し出した・・・。

 

 とっ、すいません、突然なんですがここで僕の自己紹

介をします。名前は結城直哉と言います。結婚はまだし

ていません。余計な事ですがつき合っている人も居ない

です。仕事は都内の某お菓子メーカーに勤めていまし

て、自分で言うのも何ですがまあ、真面目だけが取り柄

みたいな平凡な男です。そんな僕に、今度のドラマのよ

うな出来事が起きて正直面くらっているのですが・・・

はい、では話を探偵事務所に戻します。

 

「それで、結城さん今日はどういったご用件で当事務所

に来られたのでしょうか?」

 

 田崎所長の眼を視ながら僕はゆっくりとでも真剣に話

し出した。


「実は、単刀直入に言いますと僕の部屋に侵入した犯人

をこちらの事務所で捜して貰えないかという事です」

 

 その言葉を聞いていた田崎所長は、暫く腕組みをしな

がら眼をつぶって何か考えていたが、その閉じていた眼

をゆっくり開けると僕にこう言った。

 

「結城さん、その依頼はうちの事務所ではできません残

念ながらお断りいたします」


「えっ!」


 僕は、思いもよらない答えが返って来た事で言葉を失

い、ただ彼女と田崎所長を交互に見るのが精いっぱいだ

った。