星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 4 ~


 

 彼女を渋谷のスクランブル交差点で見かけてから1

週間が経っていた。部屋の鍵は防犯用の二重鍵に変え

たので、侵入される不安は解消したのだが、どうにも

腑に落ちない疑問は解消するどころかむしろ僕の胸の

中で、まるで悪性の腫瘍の様に日に日に膨らんで行っ

た。それで、僕は自分でも驚いているのだが、かなり

思い切った行動に出ることにした。


「確か、この辺だったよな」


 次の休みの日、僕は彼女が勤めている探偵事務所が

入っているあのビルの前に立っていた。あの時は、彼

女を追いかけるのが精いっぱいで、建物を見る余裕は

無かったが今日改めて見てみると意外と古いビルだと

思った。壁にある顔の皺のように見えるクラックが、

それをさらに強調しているみたいだ。ここで、一つ断

っておきたいのだが、僕がここに来た理由は純粋に部

屋に侵入した犯人探しが目的であって、このことを理

由に彼女とお近づきになりたいとか、ましてや交際し

ようなどと、そんな不謹慎な考えは一切無い訳で・・

・まっ、まあそんな事はどうでも良い話で、兎に角僕

は探偵事務所のドアをノックした。


「いらっしゃいませ」


 彼女は、お辞儀をしながらそう言って顔を挙げると

予想通りの言葉を僕に投げかけた。


「あら、貴方どうしてここに?」


 彼女は、ちょっとビックリした顔で言ったが、彼女

の後ろのデスクに坐っていた。中年の男性が口をはさ

んできた。


「何だ、君たち知り合いか?」


 応接室に通された僕はこれまでの経緯を包み隠さず

正直に話した。彼女に駅で助けて貰って、その後僕の

部屋で侵入事件が起こった事、偶然町で彼女を見かけ

て、好奇心からストーカーまがいに後を尾けてしまっ

た事など、流石にこの話の時には、彼女の眉間に立て

皴が刻まれたが、直ぐ「困った人ね」と言いながら笑

って許してくれた。


「そうですか、いや散々な目にあわれましたな、まあ

それでもうちの事務所の所員が役に立ったのであれば

幸いでしたな」


 さっき渡された名刺で、この中年の男性が探偵事務

所の所長であることが解ったのだが、何とも風采のパ

ットしない男だった。人を見た目で判断してはいけな

い所だが彼女とのぱっと見の落差があまりに大きかっ

たので、ついそんな事を考えてしまっていたら、コー

ヒーの良い香りが僕の鼻腔をくすぐって来た。


「コーヒー良かったらどうぞ」


 彼女がコーヒーをテーブルの上に丁寧に置きながら

言った。


「あっどうも、いただきます」


 僕は、コーヒーを飲みながらチラッと彼女を見た。

胸もとの名札に眼が行って少し驚いた。そこに田崎ゆ

かりと書かれていたからだ。


「何だよ、所長と同じ苗字、という事は二人は父娘か

?」


 心の中でそう思った僕に目ざとい彼女は直ぐに反応

して来てこう言って来た。


「今、名札を見て所長と私が父娘じゃないかと疑った

でしょ」


「あっ、いや別に・・・」


 ズバリ言い当てられてドギマギしている僕に所長が

助け舟を出してくれた。


「いや、よく間違えられるんですが父娘じゃ無いんです

よ。まあでも当たらずとも遠からずというやつで、この

娘は私の兄の娘でして姪っ子になります。幼い頃に両親

を交通事故で亡くしたもんで、以来私の家でひき取った

というわけですな、まあ父娘みたいな感じではあります

よ」


 そこまで、所長が言うと彼女が細くて長い指を差し出

し僕と所長の前に突き出して言った。


「はい、私の身の上話はそこまでよ。ここからは仕事の

話をしましょうね」


 所長も、少し喋り過ぎたと思ったのか出されたコーヒ

ーをぐっと一口飲むと、顔を引き締めてからおもむろに

話し出した・・・。

 

 とっ、すいません、突然なんですがここで僕の自己紹

介をします。名前は結城直哉と言います。結婚はまだし

ていません。余計な事ですがつき合っている人も居ない

です。仕事は都内の某お菓子メーカーに勤めていまし

て、自分で言うのも何ですがまあ、真面目だけが取り柄

みたいな平凡な男です。そんな僕に、今度のドラマのよ

うな出来事が起きて正直面くらっているのですが・・・

はい、では話を探偵事務所に戻します。

 

「それで、結城さん今日はどういったご用件で当事務所

に来られたのでしょうか?」

 

 田崎所長の眼を視ながら僕はゆっくりとでも真剣に話

し出した。


「実は、単刀直入に言いますと僕の部屋に侵入した犯人

をこちらの事務所で捜して貰えないかという事です」

 

 その言葉を聞いていた田崎所長は、暫く腕組みをしな

がら眼をつぶって何か考えていたが、その閉じていた眼

をゆっくり開けると僕にこう言った。

 

「結城さん、その依頼はうちの事務所ではできません残

念ながらお断りいたします」


「えっ!」


 僕は、思いもよらない答えが返って来た事で言葉を失

い、ただ彼女と田崎所長を交互に見るのが精いっぱいだ

った。 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 3 ~

 

 

「うーんと、この辺だったけどな、あ、あった」


 今朝、あんな事があったので気分一新の為にスカッと

するような映画でも借りようと会社が終わった後、駅前

のレンタルショップに来たのだが新作にも中々これはと

いう作品が無かったので思い切って古い作品を借りるこ

とにした。


「これだ、これだ」


 手に取ったのは、松田優作探偵物語だった。僕はリ

アルタイムでは松田優作は見たことは無かったが、テレ

ビの深夜映画でやってたのをたまたま見てファンになっ

た。それからは、良い作品が無い時には優作の映画かテ

レビシリーズを借りている。その日は、旧作を10本ほ

ど借りてレジで金を払い店を後にした。

 

「よーし、今日は土曜日だし一晩中映画三昧だな」


 
 アパートに帰る途中でコンビニでビールとつまみをし

こたま仕入れた。


「よし、これで準備万端ととのったぞ」


 僕のアパートは、駅から歩いて10分程の所にある。

最近引っ越したのだが、日当たりもいいし良い物件に

当たったんじゃないかと本気で思っている。駅のまわ

りには今はやりの店だったり、飲んだり食べたりする

おいしい店も結構そろってたりするので僕にはこの町

で、楽しく生活するには十分過ぎる町だった。そんな

事を色々考えている間にアパートに着いた。


「んっ。!」


 ドアノブに鍵を挿し回した瞬間、少し違和感を感じた。

いつも鍵を右に回して開けるのだがその時の抵抗感が無

かったのだ。鍵がかかって無い直感的にそう思った。鍵

を閉め忘れたかなとも考えたが、しかし少し寝不足気味

ではあったがちゃんと鍵を掛けたのは覚え

ていた。という事は・・・僕は用心しながら静かにドア

ノブを回して外開きのドアを開けようとした。


ドガッ」


 凄い音だった。その衝撃で僕は後方に吹っ飛ばされ、

頭をしたたか打ったが直ぐ起き上がった。その僕の眼の

前を黒い影が通り過ぎ様としているのが見えた。茫然と

なって言葉がなかなか出なかったがやっとの思いで絞り

出すように言った。


「ど、泥棒!」


 黒い影がその声にちらっと振り向いたようだったが顔

は解らなかった。そのまま一目散に逃げて行ってしまっ

た。僕は、そいつを追いかけようとしたが不覚にも腰が

抜けてしまってその場にへたり込んでしまっていた。


「それで、犯人の顔は見なかったんですね」


 駆けつけた警察官がそう僕に質問した。


「はあ、なにぶん暗かったもんで」


 警察官は矢継ぎ早に質問してきた。盗られた物は無い

のか、とか、壊された物は無いかとかそのたぐいの事で

あった。部屋は見る限りそう荒らされてはいなかった。

多分犯人が侵入して、暫くして僕が帰って来たものだか

ら犯人は品物を物色する暇もなく、泡食って逃げたのだ

ろうと言うのが警察官の見立てだった。結局、怪我も大

した事がなく盗られた物も無いという事で行きずりの窃

盗犯だろという所に落ち着いた。

 

「部屋の鍵は新しいものに変えた方がよろしいでしょ

う。それも出来れば二重にされた方が良いかと、それ

とこの辺りのパトロールを今後強化するように本署に

上申しておきますので」


 それだけ、言い残すと警察官は帰って行った。事件性

が薄いと呆気ないものだなと思ったが、まあとにかく鍵

は警察官の言う通り明日早速段取りしなけりゃと思った。

その夜、僕は借りてきた映画を一晩中見て夜を明かした。

犯人はどうやったか解らないが、この部屋の鍵を入手し

ていたという事だからもう一度帰って来ないとも限らな

いと思うと、怖くて眠るなんてとても出来ないと思った

のだが、夜明け前にはテレビの前でしっかり眠っていた。

買ってきたビールが睡眠を手伝ったみたいだった。翌

日、遅い朝食を済ませてから僕は防犯鍵の専門店に行く

ために都心に向かう電車に乗っていた。しかし、何でこ

んなに立て続けに事件に巻き込まれるんだろうと電車の

車窓から見える流れゆく景色を見ながら僕は考えに耽っ

ていた。


「何か、したのか俺」


 そう思って色々考えたが何も思い浮かばなかった。そ

うこうしてるうちに電車は目的地の渋谷駅に着いた。鍵

のショップは、駅から程ない所にあった。店では昨夜起

こったことを一部始終話して一番防犯性の高いものをお

願いしますという事で頼んだ。今、少し混んでいるので

二、三日掛かるという事であったが取り敢えず出来るだ

け急いでくれという事をお願いして店を後にした。


「さて、この後はどうするか」


 そう、思って渋谷のスクランブル交差点を少し急ぎ足

で歩いていると、その人は反対方向から来てやはり急ぎ

足で通り過ぎて行った。「あ、彼女だ」昨日、電車で危

ういところを助けてくれたあの彼女だった。僕は、悪い

と思ったが好奇心から彼女を尾行する事にした。


「これじゃ、まるでストーカーだな」


 彼女の早足について行くのに苦労したが、十分ほど歩

いて七階建てのビルに入って行くのを確かめてから、彼

女の後に続いた。5階にあったその会社の名称を見て僕

は妙に納得した。そこには田崎探偵事務所と書かれてい

たからだった。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 2 ~

 


 駅を出ても僕たちはしばらく走っていた。何せ痴

漢現場から逃げ出した犯人なのだから出来るだけ犯

行現場から離れないとやばかった。


「はあーここまで来ればもう大丈夫よね」


 彼女が言った。初めて見たときも美人だと思った

が、息が上がってハアハア言っている彼女はさらに

美しかった。さっきは着てる服までは見る余裕がな

かったが、意外にラフな格好をしているなと思った。

ジーンズに上は胸のふくらみがはっきりわかるTシ

ャツそれに薄手のジャケットだった。


「フウー、久しぶりの全力疾走だったからもう息が

上がって、君は大丈夫?」


「全然、大丈夫でも面白かったわね。あの女子高生

逃げたーって叫んでたわよアハハハ」


 彼女は周りも気にせず、大きな口をあけて楽しそ

うに笑った

 

「あのー、お礼を言うのが遅れたけど助けてくれて

ありがとう。おかげで痴漢冤罪の犯人にならなくて

済みました。でも、助けてもらって言うのも何だけ

どどうして僕を?」


「顔、顔よ」


 怪訝そうなそれこそ「顔」をしている僕に彼女が

答えた。


「あの、大人を舐めきっている女子高生の生意気そ

うな顔にムカついたのよ」


 そんな事で助けてくれたのかと僕が思っていると

彼女がさらに付け加えた。


「それに、傍目で見てもあなたに痴漢が出来るよう

な度胸があるとは到底思えなかったの」


 痴漢行為が出来るのを度胸かどうかは別としてな

んだか褒められてるのか、けなされているのか複雑

な心境だった。


「でも、僕寝てたから知らなかったけど、君僕の隣

に座っていたんだね」


その時、彼女がいたずらっぽく笑って言った。


「あーっ、あれ全くの嘘よ」


「えっ、嘘だったの」


 驚いている僕に構わず彼女は、自販機にお金を入

れ炭酸のジュースを二缶取り出すと一本を僕に渡し

てくれた。


「はい、どうぞ喉渇いたでしょう」


 僕が恐縮して受け取らないでいたら、彼女は僕の

胸に缶ジュースを押しつけてきた。


「受け取れないよ、助けてもらったのは僕の方なん

だからせめてお金払わさせてよ」


と、僕が言うと彼女は缶ジュースのプルトップを引

き上げて中のジュースを飲みながら答えた。


「いいわよ、缶ジュースの一本や二本いつでも奢っ

てあげる。

それに助けたのだってあたしが好きでやったことな

んだから、あなたが恩に思う事ないわよ」


「解った、じゃあ遠慮なくいただくよ。それでさっ

き言った嘘って本当?」


 もらった缶ジュースのプルトップを引き上げると

プシュッと炭酸のガスが抜ける音がした。


「それは、本当の事よ最初はあなたの恋人でも装う

かと思ったけどあなたがもし芝居に乗らなくて否定

されたら困ると思って、咄嗟に考えたの中々良いア

イデアだったでしょ」


 僕は、感心しながら彼女の話を聞いていた。


「ふーん、そうなんだ。でもそのハッタリがバレる

とは思わなかったの」


 彼女はちょっと上目づかいにしながら言った。


「うーん、それも少しは考えたけどあの女子高生が

嘘をついてるって直感的に解ったの、私こう見えて

も結構人間観察には自信があるんだ。これは私の職

業にも関係してるのかも」


「職業?ところで君は何してる人、まさか警察関係

じゃないよね」


 僕は、真顔で聞いてみた。


「馬鹿ねえ、警察だったら貴方とっくに留置場の中

よ」


 そりゃ、そうだと思ったその上で彼女に聞き直し

た。


「じゃ、なんの職業か教えてよ」


 彼女は、少し考えたがすぐに答えてくれた。


「それは、秘密お互い相手のことはあんまり詮索

しないで別れましょ。知らない方が良い時もある

から、それより貴方会社に行く途中だったんじゃ

ないのそっちの方は大丈夫?」


 そう、言われて僕は会社の就業時間を完全にオ

ーバーしてるのに気づいた。慌ててスマホを出し

て会社に電話をかけた。


「あっ、課長、実は寝坊してしまって今大至急で

会社に向かってます。誠に、誠に申し訳ありませ

ん」


 僕が、平身低頭ひたすら謝り続けた結果課長も

分かってくれたみたいで「それじゃ、出来るだけ

早く来いよ」と言ってくれた。ホッとして電話を

 

切り視線を彼女に戻すと、もうそこに彼女の姿は

無かった。いつの間にか彼女は消えていた。


「とうとう、名前も聞かずじまいだったな」


 自販機の脇から黒い猫がヌッと出た。そして僕

をチラ見しそのままビルの間の細い路地にスルリ

と入って行くのを見ていて、あの猫みたいな女性

だったなと僕は思った。そして彼女が消えたと思

われる方角に向って一礼をして、それから急いで

僕は会社に向かった。

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 1 ~

 

REGAIN

 


 不覚にも寝てしまっていた。昨夜、深夜放送でやって

た映画「それでも、僕はやってない」が面白すぎてつい

最後まで見てしまったのがいけなかった。それから、直

ぐ寝たけど既に午前3時を回っていた。ハッと眼がさめ

て気がついたときには,すでに降りるべき駅を通り過ぎ

た後だった。


「まずい、まずいぞ会社に遅刻してしまう」


 次の駅に着いて、僕は電車のドアーが開くと同時にダ

ッシュで乗り換え口に向かおうと走りかけたその時いき

なり手をつかまれた。


「この人、痴漢です誰か駅員さん呼んでください」


 見知らぬ女子高生らしき女の子が僕の手をつかんでい

きなり叫び出した。


「はっ?」


 僕は、何が起きたか解らず呆然とつかまれた手とその

女の子を交互に見るのが精いっぱいだった、が、一瞬で

理解した。昨夜の映画の記憶がいきなり甦ってしまった

のだ。そしてその後の結末も映画の主人公がどうなって

しまうのかも・・・


「俺、会社辞めさせられんの」


 頭から血の気が下がって顔面蒼白になってる僕に向っ

て女子高生が何か喚いているのだがあんまり耳に入らな

かった。


「ちょっと、あんた聞いてんの何シカトしてんのよ!こ

の変態痴漢野郎」


 周りが騒然となって、非難の眼が一斉にこちらに向け

られているのが解る。「うわーこれも映画と同じだ」と

僕が絶望的になった時、誰かが呼んだのだろう若い駅員

がやって来た。


「えーと、すいません。あなたが痴漢被害を受けた方で

すか?」


 と、駅員が女子高生に聞いている女の子は僕の手をし

っかりと捕まえたまま眼には涙を浮かべながら頷いて答

えている。僕が潔白なのは僕自身が一番解っている訳で

そうであれあの涙は一体何なんだあれが演技とすれば女

子とはなんて恐ろしい生き物なんだ。何て、呑気なこと

を僕が考えてる間に事態はどんどん悪い方向に向かって

いた。


「じゃあ、とりあえず事務室にお二人とも来ていただき

ますか」


 そうなんだ、ここで逃げてもし捕まったら完全にクロ

だし、たとえ事務室で身の潔白を言っても多分誰も信じ

てくれないのが関の山、そのうち警察が来たらそれで僕

の未来はそこでお終いだ。うな垂れて駅員と女子高生に

挟まれるように事務室に連れていかれようとしていたそ

の時三人の後ろから女性の声が突然聞こえた。


「その人、痴漢してませんよ」


 三人が、一斉に振り向くと一人の若く、凛とした眼が

爽やかな一人の女性が立っていた。


「なによ、あんた突然出てきてこいつが痴漢やってない

って証拠でもあんのかよオ・バ・サ・ン」


 女子高生は自分の意見が真っ向から否定されたのがか

なり悔しかったとみて噛みつかんばかり勢いで怒鳴った。


「あるわよ」


 その、若い女性は落ち着いて答えた。


「あなた、私がその人の隣に座っていたの知ってるの?」


「えっ」


女子高生の顔に明らかに動揺が走った。


「知らなかったみたいね、あなた電車のドアーが開いた

時点で獲物を探して、たまたま捕まったのがその人って

事じゃないの」


さっきまで、噛みつきそうな勢いだった女子高生が急に

借りてきた猫のようにおとなしくなった。そこまで聞い

ていた若い駅員が二人の中に割って入って来た。


「まあ、こんな所で話すのも何ですから4人で事務室に

行きませんか」


 駅員が最初に僕の方を向いてそう言ったので仕方な

く頷いた。女子高生も渋々行く気になったみたいで駅

員の後ろからついて行く、駅員、女子高生、僕、そし

てあの若い女性が縦に並んで歩きだした時女性が僕の

耳にそっと囁いた。


「いまよ、逃げるのは」


「えっ」と言う間もなく僕は女性に手を引かれて走っ

た。駅員と女子高生は気づかずにそのまま事務室の方

へと歩いている。 もう、振り向きもせず猛ダッシュ

で二人はその場から離れた。遠くで「逃げたー」とあ

の女子高生の声が小さく聞こえたがその時は僕たちは

すでに改札を抜けていた。

 

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車 12~

 

 

十二


 成田国際空港は、千葉県成田市の南東部、三里塚

にある国際空港で長年にわたる空港反対運動を経て

現在ではレベル3とも言われる混雑空港に成長してい

た。その空港の第一ターミナル南ウイングに重低音の

エンジン音を響かせて一機の航空機が到着した。空港

ロビーは混雑していたがその中でも、上背があるその

男はひときわ目立つ事を気にしてか少し猫背気味に歩

いていた。


「スカイライナーの出発時間には、まだ少し早いか・

・・」


 時計を見ながらそうつぶやいたのは長いアメリカ出

張から、1年ぶりに日本に帰国した坂田和彦だった。

坂田は空港内にあるレストランで昼食を取り都心に向

かう電車に乗りこんだのだが、その車内の座席に坐り

ながら傍らのバッグから手紙を取り出していた。手紙

の送り主の名は中村浩一とあったのだが、坂田がニュ

ーヨーク支社に届いていたその手紙を見たのは、仕事

もひと段落着いたつい最近の事だった。内容は以前坂

田が浩一に送ってやった仮想通貨の事であった。その

手紙には出来ればもう少し仮想通貨を分けてもらえな

いかという事だったのだが、いかんせん坂田の仕事が

忙し過ぎて連絡を取ったのもつい最近の事になってし

まっていた。しかし、携帯はすでに料金延滞でもした

のか全然つながらなかった。


「中村の奴、わざわざこんな手紙よこすなんてよっぽ

ど困ってたのかな 坂田は、浩一の実家にも連絡を取

ってみたのだが父親が出て「あいつは、勘当したので

家とは一切関係ない」

けんもほろろに切られてしまった。それで、坂田は

実家に帰る前に浩一のアパートに向ったのだが、坂田

が杉並にある浩一のアパートについたときにはもう既

に午後2時を回っていた。階段を登り切った2階の一

番奥が浩一の部屋だったはずと表札を見たが、もう既

に別の名前に変わっていた。無駄だとは思ったがドア

ーのチャイムを鳴らしてみた。


「はーい」


 と、いう声と共に玄関のドアーを開けて出て来たの

は23才位と思われる子供をおぶった若い母親であった。


「何の、御用ですかセールスならお断りですよ」


 若いに、似合わずつっけんどんな言い方でその女は

坂田の方を見ながら言った。


「あ、いやセールスではありません。実は以前この部

屋に住んでいた中村と言う人をご存じないかと思いま

して」 少し、怪しむような視線で若い母親が言った。


「ああ、そんな事なら大家さんに聞いて下さい、うち

もここに引っ越してきたのついこの前何です。それに

ーあなたで二人目ですよそんなこと聞かれるのは、あ

なたと違ってガラの悪そうな二人組でしたよ。こちら

も迷惑してるんですけど何かやったんですかその人」


 大家の住所と電話番号を聞いた後、坂田はアパート

を早々に出て大家の所に向かった。すぐ近所に住んで

いるという事で少しホッとしていた。大家の家はすぐ

に見つかった。かなり年数は立っているものの和風建

築のかなり大きな家である。玄関のチャイムを鳴らす

と出て

来たのは腰のしゃんとした元気そうな老婆であった。


「どなた?」


 ひとしきり、さっきアパートの若い母親に話したの

と同じ説明を繰り返した。すると老婆はそれまでのむ

しゃくしゃをまるで坂田にぶつけるように話し出した

のである。

 「いやね、あたしゃあんたに何の恨みも無いんだけど

ね。あんた、あの中村って男の友達かなんかかい?だっ

たら悪いこた言わないよあんな無責任な男とは縁を切っ

た方が良いよ」 ここから始まって坂田和彦は、結局

一時間余りこの老婆の愚痴を聞かされる羽目になった

要約するとこんな事だった。どうやら中村は、金融業

者それもかなり質の悪い連中から借金をしてたらしい

アパートの家賃も滞納するぐらいだから当然その金融

業者の借金も返せず挙句の果てに踏み倒しにかかった

らしいのだが、その方法が仮病で救急車を呼び出すと

言うものだった。病院に運ばれたその後は病院から逃

げ出し今は行方不明らしいのだ。

 

「あたしゃ、大家をもうそれこそ何十年とやって来て

るけど初めてだよ。あんな無責任な間借り人は、家賃

は払わないは借金は踏み倒すはおまけに親からも勘当

されたって言うじゃないか」

 

 たまりにたまった愚痴を散々聞かされ、ほうほうの

体で坂田は大家の家を後にした。結局、滞納したアパ

ートの家賃と闇金の借金は中村の母親が肩代わりした

らしい

のだが、これは後に亭主に黙って家の金を使ったのがば

れて中村の母親は離婚されると言う羽目に成ったらしい。

坂田は、実家に帰る道すがら沈鬱な気持で歩いていた。

中村がこんな事になったのは、奴のいい加減さもあった

かも知れないがその引き金になったのがあの仮想通貨に

」あったような気がしてならない坂田であった。

仮想通貨の高騰は坂田もテレビのニュース等で知ってい

たのだが、それ故にあの時居酒屋で軽く仮想通貨をやろ

うかなどという事を自分が言わなければここまでの事に

はなっていなかったかもしれないのだ。仮想通貨で一発

当てようとした挙句大損をしてしまった友だちが今はた

だ生きててくれれば良いがと、それのみを望む坂田では

あった。いつの間にか降り出した雨が本降ぶりになりか

けていた。坂田はもうすでに肩をぐっしょり濡していた

が、雨を落としている天空の雲をいっときじっと睨んで

しかしすぐ顔を前に向き直して雨にけぶる銀杏並木の通

りを駆け抜けて行った。その姿は、降りしきる雨がすぐ

に消してしまって、今はもう跡形も無くなり道路に当た

った雫がまるで生き物の様に飛び跳ねているばかりであ

った。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車 11~

 

十一


 昔からピンチはチャンス、チャンスはピンチという

言葉があるが、それは日頃の努力が実ってやっと運を

つかみかけている者を指す言葉で浩一の場合、この場

面でのピンチは本当の意味のピンチで闇金の連中にも

し拉致でもされたら、これはちょっとシャレにならな

い状況に成る事は誰の目にも明らかだった。それに今

の所金を返す当てもない浩一なのだが、たった一つ望

みがあるとすれば仮想通貨の相場が又暴騰する事なの

だ。それには兎にも角にも時間が必要なのだが、その

時間は、やがて午後十時を過ぎる所だった。


「そろそろ、仕掛けてみるか」 


 浩一は真っ暗闇の中でポツンと呟いてスマホを取り

出し電話を掛けた。呼び出し音が鳴りやがて相手の声

が聞こえてきた。


「はい、こちら東京消防庁です。火事ですか、救急で

すか」


 相手に聞こえる最小限の言葉で、浩一は話した。さ

っきカーテンの隙間からのぞいたら、やはり昼間の男

がまだ立ってタバコを吸っているのが見えていた。極

力この会話を気づかれない様にしなければならなかっ

た。浩一は出来るだけ弱々しい声で相手に伝えた。


「すいません、体調が悪くて吐き気もするんですが救

急車を呼んでもらえませんか」


「分かりました。先ずあなたの住所を教えていただけ

ますか?」


 丁寧に解りやすく相手に教えた勿論、出来るだけ気

配を消してだが、一番近くの消防署から出動するらし

いのだが、それでも二十分ほど到着に掛かると言われ

た。浩一はドアーに取り付けてある覗きレンズからそ

っと外の様子を窺って、それからカーテンの隙間から

裏の露地を見てみた。暗かったが男が立っているのが

見える。


「良かった、まだ気づかれてはいないな」


 そう言うと、浩一はそっと洗面台の方に移動してい

た。洗面台の右の小さな引き出しを開けてそこから薬

の箱を取り出した。


「まさか、こんな状況でこれが役に立つとはな」


 それは、睡眠導入剤だった。まだ浩一が会社勤めの

頃、仕事が上手くいかず軽い不眠症を患った事があっ

た。その時に薬局から買っていたものがまだかなりの

量残っていたのだ。ちょっと危険だったがこの際そん

な事は言ってられなかった。コップに水をなみなみと

入れ浩一は全ての錠剤をすべて手のひらに移し一気に

飲みこみコップの水で無理に流しこんだ。程なく頭が

朦朧となって来た。暗やみの中で気配を殺して待って

いるのだが、そのたった20分が浩一には永遠に思える

ぐらい長かった。暫くするとボーっとしている意識の

中で、遠くの方から救急車のサイレンの音が近づきや

がてアパートの下で止まったのが解った。アパートの

ドアーが無理にこじ開けられる音が聞こえた。


「大丈夫ですか、私の声が聞こえますか」


そう連呼する声に交じって時どき誰かが、かなり激し

い口調で怒鳴っている声も聞こえた。


闇金の連中か・・・」


 心の中で浩一はそう思っていたが体の状態は想像以

上に悪くなっていた。実は、この思い付きのアイデア

は以前テレビで見た何かの特集番組だった。今現在、

社会問題になっている中の一つにいたずらではないの

だが、単なる腹痛とかちょっとした擦り傷程度で簡単

に救急車を呼んでしまう人が、年間にするとかなりの

数で発生していてそれが本来直ちに駆け付けなければ

ならない重篤な患者の妨げになっているというものだ

ったのだが、それを悪いことだとは思ったが浩一は利

用しようとしたのである。だが、ただの仮病だとすぐ

にばれてしまうのが落ちなので、本当に病気になる必

要があると思って先程の睡眠導入剤の事を思い出した

のだがこれが殊のほか効いたみたいで、当の本人の浩

一は少し後悔していたのだが、担架に乗せられ頭がグ

ルグルと廻って本当に気分が悪くなり吐き気も嘘でな

く襲って来ていた。後は、ただ救急車のサイレンの音

と時々目を開けると救急車の天井が目まぐるしく回っ

ているのが見え、やがてそれも分からなくなり意識は

カオスの中に消えて行った。

 

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車 10~


 夢の中で浩一は大きな歯車に挟まれ苦しんでいた。

やがてその歯車が、大きな力でいきなり歪みはじめて

浩一の身体を押しつぶすように回転し始めたのである。

浩一の肉体は捻じ曲げられ内臓は飛び散りその四肢が

バラバラになったところで眼が覚めた。


「嫌な、夢を見たな・・・・・」


 浩一がキャバクラを出てアパートの自分の部屋に戻

って床に就いたのは、もう夜明け前に近かった。ベッ

ドから起き出した時には、時刻はもう午前11時を過ぎ

ていて、飲み過ぎのせいであんな夢を見たのかなと思

いつつもトイレを済ませ台所に行きコップ一杯の水を

乾ききった喉に一気に流し込んだ。まだ、アルコール

が身体中に残っているのが解った。二日酔いの頭でパ

ソコンの前まで来て起動のスイッチを押した。


「どれどれ、どのぐらい今日は増えているかな・・・

・・」


 そんな、呑気なことを言っていた浩一だったがパソ

コンの画面を見た途端、言葉を失ってしまい、呆けた

人の様にあんぐりと口を開けたままになってしまって

いた。


「何だよ、何なんだよこれは」


 と、浩一が唖然としてつぶやいたのも無理なかった。

昨日まで留まる所を知らない勢いで上昇していたビッ

トコインが何という事か一晩で大暴落を起こしていた

のである。


「嘘だろ、こんな事ある筈が・・・」


 浩一は、そう言いながら急いでほかのコインの相場

も見てみたがビットコインに引きずられでもしたのか

ほとんど同じく大暴落を起こしていた。浩一がこの一

週間で増やし続けた資産はものの見事にその価値を無

くし雲散霧消していた。浩一の顔から血の気が一瞬に

して引いていた。今は何も考えられなくなったその顔

は変に歪み、顔面蒼白となってしまっていた。それか

らの浩一はパソコンの画面を寝る事も忘れて、ずっと

見続けていた。


「相場は、一度落ちても必ず復活して又上昇する筈だ」


 浩一はそう考えて、寝ずにパソコンの画面を見てい

たわけだが無情にも大暴落を起こした仮想通貨の相場

は中々元には戻らなかった。戻るどころかますます下

降線をたどっていた。実は、この時の浩一の考えはあ

ながち間違いではなく時を置いてビットコインはこの

時の暴落して損をした分を簡単に取り戻す位に跳ね上

がって行く訳だがそれはまだ当分先の話である。しか

し、この時の浩一はとことん運から見放されていたも

のらしくそれをひたすら待ち続ける時間は無かった。

なにせ闇金から借りた金の返済期日が明日に迫ってい

たのである。


「どうする、時間がないぞ何か考えろ、考えろ、考え

るんだ」


 結局、良いアイデアは中々浮かばず時間だけが刻々

と過ぎて行った。そして、借金返済の当日の朝を迎え

る事になった。浩一が必死になって出した結論、借金

取りから遁れる一番シンプルな方法それは居留守を使

う事だった。そして、夜になるのを待って逃走を図る、

兎に角時間を稼ぐことを浩一は考えていた。きっと、

逃げ回ってる間に俺の持っている仮想通貨が必ず復活

して闇金の借金くらい簡単に返せる様になる筈だ。い

やきっとそうなる資産が減ったと言っても買った仮想

通貨のコインの数は、変わらない相場さえ元に戻れば

いやそれ以上に上がれば一瞬にして俺の資産は取り戻

せるはずだ。浩一がそう思った時コンコンとドアーを

ノックする音が聞こえた。


「おはようございます。阿久戸金融ですが、いらっし

ゃいますか」


 ドアーが何回も叩かれたが、当然居留守を使ってい

る浩一は返事をできる筈もなく部屋の隅っこで阿久戸

金融の社員があきらめて帰るのをひたすら耐えて待っ

ていた。


「おかしいな、こんな朝っぱらからどっかに出かけと

も思えんが」


 少し、関西訛りが入ったドスの利いた声が聞こえて

言いた。


「おい、お前はここで見張って居ろ俺は社長にこのこ

とを報告してくるから、もしかしてあの野郎バックレ

やがったかもしれん?」


「はい、わかりました」


 ドアーの外のこんな会話を聞きながら、浩一はとに

かく物音を立てないように身をすくめていた。生きた

心地のしない時が過ぎて行った。二時間ほどしたらや

っとあきらめたのか奴らの気配がしなくなっていた。

浩一は、そっとカーテンの隙間から外をのぞいてみる

と、案の定裏手の露地に一人立っていた。多分階段の

下あたりにもう一人見張りがいると思われた。


「さて、どうやって逃げるか兎に角夜が来るのを待つ

しかないな」


逃げる準備は既に出来ていた。パソコンのたぐいは天

井裏に隠した。これは仮想通貨の相場が元に戻った時

の為だった。後は、逃げているときの食糧費これだけ

は何とか確保しておいたが、問題は奴らの眼をかいく

ぐりどう逃げおおせるかだった。浩一はその一番大事

な所の作戦はまだ考えていなかった。時だけが過ぎて

行きやがて夕方になり闇が辺りを包みはじめた頃、浩

一の頭にある考えがやっと浮かんだのだった。