星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 15 ~

 


十五


 11月も半ばを過ぎたこの頃、しかも深夜ともな

れば一段と寒くなるの普通の事なのだが、この人

気のないビルディングの建設現場の一角にあるプ

レハブ小屋の中だけは、異様ともいえる熱気に包

まれていた。

 

「ほら、早くこいつ裸にむいちゃいなよ」

 

 もう、いっときも待ち切れないとばかりに女子

高生が叫んでいる。由香里はと云えば、天井から

降ろされたロープで両手首を縛られて丁度バンザ

イをするような格好でつるされて目と口はガムテ

ープで塞がれたままだった。

 

「ベリッ」

 

眼に、張り付けてあったガムテープが乱暴に剥が

され由香里の視界はいきなり自由になり、おかげ

で見たくもない光景が見えて来た。長い時間、目

をつぶった状況だった眼球に視力が回復するのに

そう時間はかからなかった。音だけで想像してい

た通り女子高生が4人、男子高生が4人の計8人が自

分を取り囲むように立っているのが見えた。この

8人に、今から自分がどういう事をされるのかは想

像しなくても解っている由香里だった。

 

「じゃ、そろそろショータイムと行くか」

 

 あの、眼つきの悪い少年が右手に持ったナイフ

で由香里のTシャツをビリビリと切り裂きはじめ、

色白の素肌と意外に豊かな胸を隠しているブラジ

ャーが見えるとそこにいる男女全員が歓声を上げ

た。

 

「うわっ、こいつ痩せてるから貧乳かと思ってた

ら意外に胸大きいじゃん」

 

 女子高生の一人が言った。そうすると誰からと

もなく「ジーンズ,ジーンズ」と囃し立てる声が

上がった。その声に押されるように、眼つきの悪

い少年は、ナイフを投げ捨てると由香里のジー

ズのベルトを緩めジッパーを下げ、両端を握った。

そうして、一気に足元まで脱がすと、くびれた腰

や適度に肉の付いた太もも、純白のパンティーが

そこにいる全員の眼に飛びこんできた。たまらず、

由香里は周りの視線に耐えきれず目をつぶった。

羞恥で色白の躰は上気してほんのり桜色に変わっ

ている。負けん気の強い由香里だったが、さすが

に精神の限界にきていた。口惜しさで、なにかが

心の底からこみ上げ両方のつぶった瞼からにじみ

出る涙を止める術はなく、後から後からとめどな

く流れ頬を濡らしていた。普段から、あまり弱音

を吐かない由香里だったが此の時ばかりは、塞が

れている口から声は出せなかったが、胸の奥深く

誰かに届いて欲しいと心の中で叫んだ。

 

「誰でも良い助けて!お願い、お願い・・・」

 

 由香里の願いを無視する様に、少年の手は、パ

ンティを剥ぎ取ろうと手をのばした。しかし、そ

の刹那。プレハブ小屋のドアが烈しく開けられ、

野太い叫び声が凄まじく響き渡った。

 

「警察だ!お前たちを拉致監禁、暴行の現行犯で

逮捕する。逃げても無駄だ。この建物の周りは大

勢の警察官がすでに取り囲んでいる。おとなしく

出て来い!」

 

 そう、言われて最初は慌てたものの眼つきの悪

い少年の行動は素早かった。いきなりプレハブ小

屋の電気を消すと、ドアの外に立っていた刑事と

思われる男に体当たりして倒れたすきに、その脇

をすり抜け真っ暗闇の中を逃げ出して言った。そ

れをみていたほかの少年たちも女子高生も我先に

飛び出し、同じく闇の中に消えて行った。それを

見届けるように影に潜んでいたもう一人の男が出

て来た。

 

「田崎所長、上手くいきましたね」

 

 倒れている田崎に、手を差し出して起こしてや

りながら結城は言った。

 

「ああ、だけどグズグズはしてられないぞ奴ら俺

達の嘘に気付いて、また直ぐ戻って来ないとも限

らないからな」

 

 そう言うと、田崎は小さな懐中電灯をポケット

から取り出しプレハブ小屋に入った。結城も後に

続くプレハブ小屋の電気のスイッチをを結城が探

し当て、電気を付けようとした時だった。

 

「電気は、付けるな由香里をさらし者にでもする

つもりか?」


「あっ、そうかすいません」

 

 結城は、、自分のうかつさに気付いて頭を下げ

た。そうしてる間にも田崎は落ちていたナイフで

手際よくロープを切り由香里を床に横たえた。そ

して、自分の着ていた上着を由香里に掛けてやっ

た後、懐中電灯を結城に投げてよこした。

 

「そいつで、由香里の身の回りの品を探してくれ

身元がバレる様なものは残しちゃダメだからな」

 

 全て、探し終わると急いでその場を離れた。奴

等が戻って来るんじゃないかとヒヤヒヤ物だった

けど、幸いその前に逃げ出すことが出来た。由香

里さんは、僕がおんぶする格好で連れ出した。田

崎所長は、腰を痛めてるとかで僕がその役目を担

う事になった。逃げだすのが精一杯で、彼女に服

を着せる余裕は無かったので、田崎所長が着せ掛

けてあげた上着の下の彼女は、まだ下着姿のまま

だった。それで、おんぶしている両腕に、彼女の

体温の温もりが直接伝わってきている。それが、

僕にはとても愛おしいものに感じられた。


「由香里さん・・・」

 

 まだ、夜明けまでには間がある午前二時頃、11

月の寒風のせいか僕の背中の上で彼女の身体は小

刻みに震え、声は聞こえないが泣いているように

僕は感じた。あんな酷い目にあった直後だし、泣

くなと言う方が無理だと思う。そうこうしている

内に田崎所長がタクシーを拾った見たいで、こっ

ちに向って手招きをし大きな声で何か叫んでいた。

 

「行先は、何処でしょうか?」

 

 タクシーの運転手は、前を向いたまま聞いて来

た。目的地を告げる崎所長の声を聞きながら、

室内の暖房の温かい空気と、彼女を取り戻した安

堵感で猛烈な眠気に襲われた僕は、いつの間にか

眠ってしまった。

 

「お客さん、着きましたよ」

 

 運転手の声と、タクシーのドアが開くのが同時

でいきなり外の冷気が、侵入して来た。眠気はい

っきに吹っ飛び、いつのまにか寝ていた3人は、

夢の世界から放り出され、そして・・・

 

「そこの、男二人おとなしく車から降りなさい!

抵抗しても無駄だからな」

 

 そう、僕たちに言ったのは拳銃を構えた警察官

だった。タクシーは数人の警察官にすでに取り囲

まれている。僕達をのせたタクシーが着いたのは、

渋谷警察署の前だ。両手を上に上げ車から降りた

後、田崎所長がポツンと呟いた。

 

「こりゃ訳を、話すのに時間かかりそうだな」と、

 

 

 

 

 

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 14 ~


十四


 由香里の意識が徐々に戻って来て、少し身体を

動かそうとした時「ズキッ」っと後頭部に痛みが

走った。

 

「ウグッ」

 

 声にならない呻きが洩れた。それもその筈で由

香里の目と口は、ガムテープでしっかり塞がれて

いて、かろうじて鼻腔だけは塞がれてない状態だ

った。身体はロープ上の物でがんじがらめに縛ら

れ身動きひとつ出来ず冷たい床に転がされていた。

それでも、何とか体の向きを変えようともがいて

いると、腹部に重い痛みが走り由香里はもがくの

を辞めた。眼が見えないので、誰がやったのか解

らないがどうやら蹴りを入れられた様だ。

 

「オ・バ・サ・ン大人しくしときなよ。もうすぐ

お楽しみが始まるから」

 

 聞き覚えのある声だった。いつか結城に痴漢冤

罪をなすりつけようとした。あの女子高生に違い

なかった。

 

「今から、あたしがあの駅で恥かいた100倍位恥

ずかしい思いをあんたに返してやるからさ楽しみ

に待っときなよ。あんたが顔面に思いっきり蹴り

をぶち込んだ男も、ここにもうすぐ来るからさ言

っとくけど、あいつのテクニックは半端ないから

あんた、きっとヒイヒイよがるんじゃない」

 

「キャハハー」、「嫌だ!いやらしい」と三人の

若い女の子が囃し立てる様に騒いでいる。

 

「でも、この女あいつらに輪姦させるのは構わな

いけどさ、その後警察とかに駆け込まれたらヤバ

くね」

 

 取り巻きの女の子の一人が当然の不安を口にし

ていた。

 

「心配は、要らないってあたしが此処にこの女を

何で運んだと思ってんの」

 

 由香里には、当然見えてないが彼女が今転がさ

れている場所は、建設が始まったばかりのビルの

工事現場、その中に有るプレハブで出来た資材用

の八畳ほどの広さの小屋だった。ただ資材は、ま

だ無く小屋の中はガランとしている。

 

「面白いこと教えてあげようか、ここに立つビル

の基礎工事の為の生コンを流す作業がもうすぐ始

まるらしいんだけど、その前にこの女をさ穴掘っ

て埋めたらどうなると思う」

 

 由香里は、身動き出来ないまま女子高生の身の

毛もよだつ自分の処刑方法を聞いていたのだが、

急に頭部に重みを感じた。どうやら靴で頭を踏ま

れているみたいだった。ここに至って由香里は、

初めて自分のしたことに後悔を感じていた。叔父

の言う事をもう少し本気で聞いとけばよかったと、

そしてもう暫くするとこの絶望的な状況をさらに

悪化させる男がやって来るはずだった。

 

「あんた、そんな情報どこから仕入れたのよ?」

 

 固唾を呑んで次の言葉を女の子たちが待ってい

ると、女子高生が言った。

 

「援交で知り合ったオッサンがここの作業員だっ

た訳、で、そいつが言ったんだよ誰か消したい人

間がいたら自分の現場に埋めりゃ良いって、そう

すりゃ永久に見つからないとか言ったんだ。あた

しも面白半分で根掘り葉掘り聞いたのよ。そした

ら工事の日程からどこに埋めたら気付かれずにや

れるかペラペラ喋るんだよ。オッサンは冗談のつ

もりで言ったんだと思うけどあたしは冗談には取

らなかった。その話聞きながら、頭の中であの女

の事考えていた訳、それで捕まえるのは良いけど

その後どうするかまでは考えて無かった。でも、

これは使えるって思ったんだよね」

 

 女子高生は、そこまで一気に喋ると由香里の頭

を靴の先でコツコツと小突いて見せた。その時、

彼女らの背後のドアが開いた。驚いて一斉に振り

向くとそこに、いつの間に来たのか三、四人の高

校生くらいの少年たちが立っていた。

 

「遅かったじゃん、待ちくたびれたよ」

 

 と、女子高生が言った。

 

「悪いな、ちょっと集金に手間取ってたからよ。

それで、この女で間違いないのか?」

 

 そう、言われた女子高生は由香里の足もとに無

造作に置いてあるバッグの中から財布を取り出し

て、その少年達の中でも一番眼つきの悪い男に投

た。

 

「その中の、車の運転免許証の写真を見てみなよ」

 

 暫く、免許証の写真をじっと見ていた男は、財

布から金だけ抜き出すと後の者は床に落とした。

 

「クソ、思い出すとむかっ腹が立ってきた。あん

ときの生意気女に間違いないな」

 

「だろ、あたしもこの女を渋谷で見かけた時すぐ

に解ったよ。腹が立つけど、こいつ背が高くて結

構マブイからさ、それでむかついたんで後ろから

いきなり中身の入ったジュース缶で殴ってやった

ら、こいつ頭から血を流して失神してやがんの、

それでここまで運んだって訳」

 

 そこまで、聞いていた眼つきの悪い男が外に立

っている少年たちを呼んだ。

 

「おい、お前ら誰でも良いから酒と食料を用意し

ろ。それと、隣の現場事務所にストーブがある筈

だから、運んで来い。この女いたぶるにしてもこ

こは寒すぎるからよ」

 

 ストーブに火を付けるとプレハブ小屋は少し暖

かくなってきたが、由香里は、逆に不安と恐怖で

心が凍り付くのをひしひしと感じていた。どこか

ら持って来たのか男は、折りたたみイスにどっか

と坐って由香里を見ていたが、あらかた準備が終

わるとニタニタとほくそ笑みながら言った。

 

「さあ、パーティを始めるか」

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 13 ~

 

十三

 

 渋谷の繁華街と言えども一歩裏手に入ると普通に

薄暗い路地はあるもので、その一角にどう見てもガ

ラの良く無さそうな高校生の数人が、やはり同年代

と思われる少年二人を取り囲んでいた。中でも背が

高くて一番眼つきの悪いそいつが、その少年の胸ぐ

らをつかみブロック塀に押しつけていきなりみぞお

ちにひざ蹴りを送り込んだ。

 

「グッ、グフ」

 

 ガクッと膝をついた少年は、腹を抑えながら地面

に突っ伏していた。もう一人の少年は、その様子を

恐怖に引きつった顔で見ていたが、やがて慌ててポ

ケットの中からありったけの金を出して言った。

 

「す、すいません今日は本当にこれだけしか持って

ないんです。これで許してください」

 

 眼つきの悪いそいつは、少年にさらに脅しをかけ

る様に言った。

 

「最初から、逆らわずに大人しく金を出せばこんな

目に合わなくて済んだのによ!おい、そっちに転が

ってるやつのポケットも探ってみろ」

 

 いわゆる、これがカツアゲと言うやつでこの不良

たちの大事な資金源になっていた。

 

「チッ、シケてやがんなたったこれだけかよ」

 

 そう、言って次の獲物を狙うために場所替えしよ

うとした一団が歩きはじめた時、一番背の高い少年

の携帯が鳴った。

 

「あっ、何だ?はあ、良く聞こえねーよ。もうちょ

っとデカい声で話せよ、あっ、何あの生意気クソ女

を捕まえたって、そうか俺たちはもう少し稼いでか

ら行くからよ絶対逃がすなよ解ったな」

 

 街灯の明りの下で、仲間の方を振り返った男に捕

まえた獲物をどう料理しようかと言う残忍な思いが

顔に浮かびその顔を見慣れている筈の悪仲間も、ド

ン引きするほど陰惨な表情をしていた。そんな事を

知ってか知らずか渋谷の街の喧騒は相変わらずうる

ささを増して行った。

 


「でっ、由香里の行方は今もって解らずか?」

 

 田崎所長の顔は、明らかに僕を非難するような眼

で睨みつけていた。「いや、そんな顔されても」と、

僕は言いたかったが、その言葉をぐっと飲みこんだ。

今はそんなつまらない事で言い争いしてる場合では

ないのだ。こうしている間にも由香里さんがどんな

目にあっているのか想像する事すら恐ろしかった。

あの後、思い付く所は全て走り回って当たってみた

けど結局解らずじまいだった。こんな時頼りになり

そうな人は、一人しか思い浮かばなかった。それで、

田崎探偵事務所に来たのだが・・・」

 

「結城さん、由香里が拉致されてから時間はどの位

たったのかな?」

 


 田崎所長に、さっきの非難めいた眼は消えマジな

表情になっていた。

 


「最初に連絡を取り合ったのが、19時で、今が21時

だから約2時間に成りますね」

 

 取り出した煙草に火を付けるでもなく、100円ライ

ターをカチッカチっと言わせながら田崎所長は呟く

ように話し出した。

 

「2時間か・・・この手の拉致事件で6時間以内に助

け出せないと、まず間違いなく被害者は身体に暴行

か最悪の場合殺害されると言うのが普通だな、まし

てや由香里の場合拉致した連中にかなり恨まれてい

る可能性があるからな、それを考えても猶予は後4時

間という所か」

 

 僕は、田崎所長に腹を立てていた。まるで他人事の

ように冷静に喋っている。仮にも自分の姪が拉致され

ている訳だから、もう少し言い方が有りそうなものだ。

やっぱり実の娘と姪では違うものなのかと思わず勘ぐ

ってしまいそうだった。田崎所長は、腕組みをし目を

つぶってしばらく考えている風だったが、閉じていた

瞼をおもむろに開けると「良し」と、自分を納得させ

る言葉を言ったが早いか、その後の行動は半端なかっ

た。手持ちのバッグから、かなり使い込んでると思わ

れるメモ帳を取り出すと、電話を掛けまくり出した。

僕はと言えば、ただ不安な気持ちでそれを見ているし

かなかった。

 

「そうだ、事情はそういう事だからよろしく、何しろ

時間が無い!じゃ解ったら連絡を頼む」

 

 最後の電話を終えて受話器を降ろすとと僕の眼をじ

っと見て行った。

 

「出来ることは、全てやった。後はひたすら待つしか

ないかな」

 

 時刻は、午前0時になっていた。探偵事務所の中で、

男二人がただ電話を見つめ、まんじりともせずただ時

をやり過ごしていた。

 

「後、一時間で猶予は無くなるか・・・」

 

 誰に聞かせる訳でもなく僕は絶望的な気分になり、

つい独り言をつぶやいた。瞬間、電話が鳴り響いた。

 


「はい、田崎探偵事務所・・・そうか掴めたか良し

そこなら大体見当は付く、直ぐ行くから待っていて

くれ」

 

 ドアを叩き壊す勢いで田崎所長が、部屋から出て

行くのを見た僕も、慌てて後を追った。途中タクシ

ーを拾って車で約20分程走った。渋谷の中心地から

すると、華やかさは感じられないが新しいビルが建

ち並び今も建設途中の建物がある様な場所に着いた。

時刻は0時30分になっている猶予時間は、残り30分だ

った。タクシーを降りた僕たちは待ち合わせ場所に

急いだ。

 

「おーっ、待たせて悪かったな」

 

 田崎所長が、そう声を掛けたが待っていた男はろ

くに返事もせず、右手を出した。そこは田崎も心得

たもので万札を一枚その手に握らせると間髪入れず

聞いた。

 

「で、奴らは何処にいるんだ?」

 

 そこで、男ははじめて口を開いたが少し申し訳な

さそうな顔をしていた。

 

「旦那、旦那にはお世話になりっぱなしなんで最後

まで突き止めたかったんですが、ほんのちょっと目

を離してる間にこの付近で見失ってしまったんです。

ここいらだとは思うんですが・・・」

 

 その言葉を聞いた田崎は落胆するわけでもなく相

手の男の肩をポンと叩くと言った。

 

「そうか、ここまで解れば十分だ。後は、こちらで

何とかするからお前はもう帰っていいぞ御苦労だっ

た」

 

 そう言われた男は薄暗がりの夜道をトボトボ帰っ

て行った。

 


「とは、言ったもののこの場所から二人で由香里を

探し出すのは並大抵じゃないな。せめて何か手掛か

りが有ればいいんだが・・・」

 

 そこまで、聞いていた僕は何か大切な事を忘れて

いるような気がしていた。それが何だったのか思い

出せずにいた。が、突然「あっ」と、いきなり叫ん

で、その声にびっくりしている田崎所長の顔をまじ

まじと見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 12 ~

 

十二

 

「うーっ、正直息がつまる」と、自分の部屋なのにそ

う思っている僕がいた。それは、部屋中に充満してい

る煙草の匂いと煙のせいだったが、もう我慢の限界と勇気を振り絞って田崎所長に言った。

 

「あのー、田崎所長コンビニに行きますけど何かいる

物があれば買ってきましょうか?」

 

 田崎所長は、録画のモニターから眼を離さずこちら

に背を向けたまま答えた。

 

「あっ、悪いねだったら煙草切れそうだから買って来

てくれるかな?金は後で払うから」

 


 コンビニ店員に料金の支払いを済ませ店を出た僕は、

少しだけ後悔していた。こんな事なら、多少危なくて

も由香里さんに来てもらった方が良かったかな、なん

て事を考えていた。近所の公園で、一休みしようと寄っ

てみたが夕方という事もあって人影はなく、子供達が

砂遊びに興じたのだろう作りかけの砂のトンネルがあ

るのを眺めながらやっぱり彼女を危険な目に合わす訳

には、行かないなと僕なりの結論を出して、田崎所長

の待つ部屋に帰ることにした。日が暮れるまでもう少

しと思っていたが、案の定アパートに着くころには、

もう夜の帳が降りかけていた。

 

「ウーっ、寒い!毎晩だと老体にはキツイな」

 

 あまり、仕事で愚痴を言わないタイプなのだが寄る

年波には勝てず田崎はつい弱音が口をついて出てきて

しまった。月曜の夜から、張り込みを始めて四日目の

木曜日の深夜だった。今日も駄目かなと諦めかけた時、

アパートの階段を上がるギシギシと言う音が聞こえて

きた。田崎の全身に緊張が走る。

 

「やっと、来たか・・・」

 

男は、しばらく結城のアパートの部屋をうかがってい

たが、あまり長居はせずアパートを出た。尾行は、慎

重に慎重を重ねて行った。始発の電車に乗った犯人と

思われる男は、やはり周りを気にしている風だったか

らである。渋谷駅で降りた男は、以外に駅のすぐ近所

インターネットカフェに入って行った。男が使用し

ている個室の番号を確認したうえで田崎所長は尾行を

切り上げ事務所に戻った。気怠い倦怠感が、田崎の躰

にまとわりついていた。そのまま、ソファーに倒れ込

むとまるで遊び疲れた子供の様に程なく深い眠りに落

ちて行った。

 


「トゥルルーッ、トゥルルーッ」

 

 田崎のここち良い眠りに水を差したのは、電話のコ

ール音だった。田崎は、受話器を取り返事をする前に

長年の習慣で時計を見た。正午をとっくに過ぎて午後

一時を少し回った時間になっていた。

 

「あっ、伯父さんやっと起きたみたいね。私よ由香里」

 

 起き抜けの頭にキンキンと響く高音の声が聞こえ、

それは田崎の頭痛を招くには充分の音だった。

 

「何だ、お前か何処から電話してる自宅か?」

 

「何、言ってるの仕事よ仕事、例のインターネットカ

フェで張り込みやっているのよ」

 

 由香里の言葉は、田崎の頭痛を悪化させるのに一秒

と掛からなかった。

 

「お前、また勝手に動いているのか?それと俺の資料

無断で見ただろう」

 

 ちょっとの間、沈黙があったが由香里はすぐ答えた。

 

「ご免なさい、その事は謝る、でも今朝事務所に出勤

したとき、伯父さんの寝ている姿が余りに疲れている

風に見えたものだから、少しでも力になりたくて」

 

「・・・・・」

 

 そう言われるとうれしい気持ちも相まって何にも云

えない田崎だったが、そこは自分の心を押し殺して言

った。

 

「とにかく、ある程度調べが付いたら一回事務所に戻

って来い、解ったな」

 

 由香里は、怒られてシュンとするかと思ったが意外

に元気に答えた。

 


「解った、ちょっと面白い事も解ったんで帰ってから

報告します。じゃあ後は事務所に戻ってからという事

で」

 

 この時、すぐ戻って来いとなぜ言わなかったのかっ

と後々後悔することになる田崎だったが、この時点で

解る由もなかった。結城に由香里から連絡が入ったの

は、残業で会社にまだ残っていた午後七時の事だった。

 


「もしもし、結城さん由香里ですけど今大丈夫?」

 


 会社で残業してたけど、あらかた終わったので帰り

支度をしていたところだと僕は彼女に告げた。

 

「良かった、実は例の男を調べていたら面白いことが

解ったの」

 

 彼女は、得意そうに喋っていたが僕は一抹の不安と

ともにある疑問が湧いた。

 


「ちょっと待って、調べているって由香里さん今どこ

にいるの?」

 


 彼女の返事はすぐに帰って来た。

 


「渋谷駅近くのインタネットカフェと言っても店の前

の路地にいるんだけど・・・」

 


 彼女が、素直に事務所で留守番する筈が無いとは容

易に想像できたけど、まさかこんなに早く田崎所長と

の約束を破るなんて、それは想定外だった。

 

「あのさ、直ぐそこに行くから詳しい場所教えてくれ

るかな」

 


 僕の声に、少し怒気が含まれていることに彼女も気

づいたみたいで、素直に教えてくれた。仕事の資料を

手早くショルダーバッグに詰め込み上着を着て、会社

をとびだした僕は、一目散に彼女の待つインターネッ

トカフェに向かった。心配になって、途中歩きながら

由香里さんに連絡を取ってみた。

 

「はい、由香里です」

 

 彼女は、直ぐ出てくれた。

 


「もしもし、結城ですけど実は聞きたいことがあるん

だけど、ほらさっき由香里さんが途中まで言いかけた

あの男の事で面白い事があるって…」

 

 渋谷の喧騒音が交って少し聞き取りにくかったので、

僕は携帯を耳に押しつける様にして彼女の言葉を待っ

た。

 

「あーっ、その事ね結城さんにじかに会ってから話す

つもりだったけど今、言っとくね!実はあの男と例の

女子高生…ツーツーツー」

 

「もしもし、由香里さん聞こえる?由香里さん!」

 

 いきなり会話が途切れてしまった。最初に由香里さ

んからの電話で感じた不安が当たってしまった。彼女

の身に何かが起こったに違いなかった。そう確信した

僕は、由香里さんに教えてもらった場所に急いだ。よ

うやく現場に辿りついたものの、もう午後八時をすで

に廻っていた。案の定、由香里さんの姿はそこにはな

く踏みつぶされコーティングにひびの入った彼女スマ

ホが主がどこに行ったかもわからず寂しく路地の隅っ

こに落ちているのが見えているだけだった。

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 11~

 

十一

 

「何で、こんな事に・・・」


 僕は、焦る心を押さえて夜の渋谷の繁華街を走っ

ていた。

 

 話は一週間前に遡ることになる。由香里さんの伯

父さん、田崎所長の許しを得て「僕の部屋に侵入し

た犯人探しと言うミッション」は、めでたく田崎探

偵事務所の仕事になって、由香里さんも今抱えてい

る仕事がひと段落したら本格的に、この件に取り組

む事でで話が決まった。


「で、防犯カメラに映っていた男の足取りは取れて

いるのか?」


 田崎所長が、デスクに肱をついた姿勢で言った。


「それはまだ、月曜と木曜の深夜に必ず結城さんの

部屋をうかがって居ることが解ったから、次の月曜

日に気付かれないよう後を追って居場所を探し出す

つもりよ」


そう言った、彼女の言葉で僕は身の引き締まる感

覚をおぼえた。それは、田崎所長も同じだったみた

いで、由香里さんの話に付け加えるように話し出し

た。


「ところで、結城さん一応確認だけど調査をうちの

事務所で受けるとなると当然、費用が発生する事に

なるけど、その辺は大丈夫かな。今までの様に由香

里のボランティアと言う訳には行かなくなるんでね」

 

 僕は、田崎所長と由香里さんを交互に見ながら答

えた。

 

「その事は、ここを初めて訪ねた時からそのつもり

でしたので大丈夫です」

 

 キッパリと僕が言ったので、心なしか田崎所長の

顔がほころんだような気がしたのだが、一瞬後には

厳しい顔に戻り由香里さんの方に向き直った。


「ところで、話は変わるけど由香里お前最近何かや

らかしてないか?俺の昔からの知り合いからの情報

で渋谷を根城にしているタチの悪い連中が若い女を

探しているって、その女の容貌がお前に似てるよう

なんでな」


 由香里さんは、例のいたずらっぽい眼を伯父の田

崎所長に向けると、こう切り出した。

 

「あーっそれ多分私だと思う。生意気な高校生に軽

くお仕置きをしたから」


 やっぱりお前か、と言う様な顔をして田崎所長が

彼女を睨みつけながら言った。

 

「由香里、少しばかり格闘技が得意だからと調子に

乗っていると今にしっぺ返しを喰らう事になるぞ。

暫くほとぼりが冷めるまで、お前は活動禁止だ。今

回は、俺が動くからお前は事務所で留守番だ。良い

な!」


 当然,何か言おうとする由香里さんの口を人差し

指で遮って、田崎所長は椅子に掛けてあった上着を

取ると、僕に行くぞと言う合図を送りさっさと部屋

から出て行ってしまった。


「由香里さん、悔しいと思うけどさっきの叔父さん

の話を聞いて僕もその方が良いと思った。あいつら

どう見ても悪質だし、狡猾そうだった」

 

「・・・・・」

 

「新しい情報は僕が逐一報告するから、由香里さん

はここで安心して待っていてほしい」

 

 僕は、彼女をなだめるような口調で言った。

 

「もう、叔父さんたら私を子ども扱いにして…」

 

 由香里さんは、不満そうだったけど僕としては一

安心という所だった。何しろ彼女の行動は、予測不

能の所があって過激だしそこが敵を作りやすいよう

な気がしてならないのだ。僕にもう少し彼女を守れ

る力が有れば良いのだけれどそこは、何とも心許な

いだから由香里さんが此処でおとなしくしていてく

れる方がすごく安心な気がする。

 

「じゃあ、田崎所長が待っていると思うのでこれで

行きます。あっ、それと良かったらこれ」

 

 僕は、ショルダーバッグの中から小さな紙袋を出

して由香里さんに渡した。

 

「何ですかこれ?」

 

 最初、不審がったが紙袋の印刷の文字を見て、彼

女は納得したみたいだった。それは、先日神社で購

入したあのお守りだった。

 

「でも、これと同じもの私も持ってるから要らない

わよ」

 

 とっ、言いながら由香里さんはそれを僕に返そう

としたので、すかさず言った。

 

「僕、子供のころの夢は何だったと思う?実はヒー

ローになりたかったんだ。ほら、か弱き女性を助け

るようなね」

 

 由香里さんは、明らかにそれが何なのと言う顔を

したが、構わず僕は話をつづけた。

 

「でも、現実は違った逆に僕が助けられる始末だ。

だから気持ちだけでも由香里さんを守りたいって

思って」

 

「それで、お守り二つ?」

 

 その時、せわしなくドアを叩く音がした。待たせ

ている田崎所長に違いないと僕たち二人は顔を見あ

わせた。それで、せかされた気になったのか由香里

さんはお守りを笑って受け取ってくれた。渡したお

守りを彼女が自分のバッグにの中に入れたのを見届

けた僕は、少し安心して事務所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 10 ~

 


 危険に遭遇したときの恐怖をあらゆる動物は、

もっと肌で感じ想像して行動すべきである。底

無し沼に落ちてしまった森の小鹿を、誰も助け

てはくれないのだ。ただ沼に足を踏みこんでし

まった自分の軽率さを呪いながら泥の中に沈ん

でいくだけしかないのだから・・・

 

「おい、聞こえてるか?」


 言われて、由香里はすぐに返事を返した。


「そんなに大きな声で言わなくっても聞こえ

てるわよ、伯父さん」


 その、返事を聞きながら田崎所長はいつも

の倍は苦虫を噛み潰していた。

 

「由香里、事務所じゃ伯父さんと呼ぶなと言

っているだろう。所長と呼べ所長と、それよ

りも例の大木さんの浮気調査は、進んでいる

のか?」

 

 田崎所長は、胸のポケットから煙草の箱を

取り出しながら言った。間髪入れず由香里が

答えた。

 

「もちろん、私の仕事に抜かりはないわよ。

後は証拠固めの浮気現場の決定的な写真が

取れたら完璧なんだけど。もう二、三日は

掛かりそうね。それよりも、伯父さん事務

所は禁煙ってこの間決めたでしょ。タバコ

吸うんだったら外で吸ってよね」

 

 さわやかさを少し通り過ぎて寒いくらい

の秋風の中、田崎は屋上で煙草を吹かしな

がら、姪の由香里の事を考えていた。弟夫

婦を交通事故で亡くしてから、あれを引き

取り今日まで自分たち夫婦で育てて来た訳

だが、まあ自分で言うのも何だがいい娘に

育ってくれたと思っている。それは解って

いるのだが、いささか元気に育ち過ぎの所

は逆に心配の種でもあった。由香里が大学

を卒業する頃に私は、長年勤めた警察を辞

めることになってしまった。そのせいかど

うか解らないが由香里は、内定が決まって

いた銀行を蹴って、私がなけなしの退職金

をはたいて始めた探偵事務所を手伝うと言

い出した。当然、反対したがその時には銀

行の内定を断っていたので後の祭り、なし

崩し的にこの事務所で働くことになってし

まった。反対の理由はもちろん危険だから

だ。私は警察の仕事柄、知らず知らず人の

恨みを買う事もあった。たいていは逆恨み

ではあったが、この探偵稼業も似たり寄っ

たりで、そんな仕事をさせるなんてとんで

もない話なのだ。あの娘には、普通にOLで

働いて普通に結婚してもらいたいと、考え

ていたのだ。それが、弟夫婦の願いだとも

感じていたのだが、世の中思い通りになら

ないものだと煙草の吸殻を靴でもみ消しな

がら田崎は思っていた。「そろそろ、事務

所に戻るか」知らず独り言が出て来るのを

苦笑いしながら屋上から事務所に戻ると由

香里は電話の応対の最中だった。

 

「はい、そうですね。はい、解りました。

伯父が帰ってきたら早速相談してみます。

じゃあ、また後ほど」

 

 由香里は、受話器を持ったままの姿勢で

何事か考えていたが、何かまとまったのか

戻った田崎に話を切り出した。

 

[所長、実はお願いがあるんですが」

 

 めずらしく、由香里は伯父さんとは言わ

ず所長と言った。

 

「断る!」

 

 田崎は躊躇なく答えた。

 

「まだ、何も言ってないじゃない」

 

 ふくれっ面の由香里に構わず田崎は自分

のデスクに坐った。

 

「聞かなくても解っている。お前が、そん

な言葉づかいの時はたいていろくな頼みじ

ゃ無いってな。それに、大体察しは付いて

いる。あの、結城何たらとか言う若造の件

だろう?ありゃあ、お前金が掛かり過ぎる

からって、俺はあいつの為を思って断った

んだぞ。それを、お前達二人してコソコソ

裏で動き回ってたろ。俺は、そう言うのは

嫌いなんだよ」

 

 由香里は、正面から頼んでも無理と悟っ

て搦手から攻めることにした。

 

「そうね伯父さんの言いたいことは解った

わ、でもこの探偵事務所の経営状態が、あ

んまり宜しくないことは伯父さんも解って

いるわよね。言っちゃなんだけど伯父さん

は相手の事を考え過ぎて仕事を選び過ぎて

いると思うの、今やってる浮気調査が終わ

ったらその後の仕事は入って無いし、実際

の所先月からいろいろの支払いが滞ってい

るし、それを考えたら結城さんの件を断る

のは得策じゃないと思う。それに結城さん

もタダでやってくれと言っている訳じゃ無

いんだし」

 

「・・・・・」

 

 こいつ、痛い所をついて来るな、と田崎

は思っていた。いったい誰に似たものやら

弟夫婦は二人とも大人しい性格だったし、

何となく由香里を見てると、鏡に映った自

分を見てるような気がする。「顔は、全然

違うけどな」多分、一緒に仕事をしている

内に自部の性格に似たのかと思わざる得な

かった。まあ、そこは少し嬉しい気持ちは

否めない田崎だったのだが。

 

「解ったよ、じゃあ話だけは聞いてやるよ。

で、どこまで調査は進んでいるんだ」

 

 由香里は、結城と二人でして来た事の一

部始終をできるだけ詳しく田崎に話した。

話の区切りがつくとそれまで黙って聞いて

いた田崎が口を開いた。

 

「それで、さっきの電話は何だったんだ」

 

 伯父のその言葉を聞いた由香里は、おも

むろに携帯を取り出すと番号を打ち込み通

話を押し、直ぐ切った。暫くして事務所の

ドアがノックと共に開けられた。田崎所長

がドアの方を見ると、そこには笑顔の爽やか

な一人の青年が立っていた。

 

「結城です。どうも、お久しぶりです」

 

 

 

 

 

 

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 9 ~

 


 映画館の中は日曜日という事もあって、ほぼ

満席状態だった。上映時間になり照明が落とさ

れ暗さに眼が慣れた頃、僕は買っておいたコー

ラを飲んだ。出来るだけ音をたてずに由香里さ

んの映画鑑賞の邪魔にならない様に、少しだけ

気を使った。由香里さんが選んだ作品は、以前

二人で見たリーアム・ニーソン主演の96時間で,

その続編と完結編の3本だった。映画好きを自

称する僕だけど、3本一気に見たらさすがに疲れ

た。でも、彼女は満足したようで映画館を出る

ときの軽い足取りで解った。それが少し嬉しか

った。外に出ると町の喧騒は相変わらずで、静

かになる夜にはまだまだ時間があるようだった。


「ご免なさい、私のわがままに附き合わせて疲

れたでしょ」


 映画館を出るなり由香里さんが言った。


「いや、全然逆に楽しかったよ」


 僕は、半分本当のことを言った。


「ほんとに?でも今日は一緒につき合ってくれ

たお礼に夕食は私が奢るわ、何か美味しいもの

でも食べに行きましょ」


 彼女に頷きながらも奢って貰うつもりはさら

さらなかった。僕はこう見えても九州男児の端

くれだ。九州の男は女性をデートに誘ったらお

金は全額持つと言うのが普通だ、少なくとも親

父からはそう聞かされていた。でも、彼女が今

日のこれをデートだと思っているかは微妙に疑

問だった。誘ったのは僕じゃなく彼女の方だっ

たから、でも僕としてはそんな事はどうでもよ

かった。何より由香里さんとこんなふうに街を

歩けるのが何より楽しかった。しばらく、二人

何のあてもなく歩いていたが由香里さんがポツ

リとつぶやいた。


「何にも、聞かないんですね」


 由香里さんが何を言いたいのか僕には解っ

ていたけど、わざととぼけて見せた。


「えっ、何の事?」


 ここは、変に詮索するより彼女が心にため込

んでいる物を吐き出させる方が良いと僕なりに

判断して、そう言ったのだがその時視線の先に

ラーメン屋の看板が見えた。


「結城さん、あそこに入らない?」


 と、彼女が顎をしゃくるように合図をした。


「だね、」


 ドアを開けると、豚骨ラーメンの良い匂いが店

内に漂っている。一番隅があいていたのでそこに

僕たちは陣取った。出来上がったラーメンが来る

と僕たちは話す事なく食べることに集中した。店

のざわめきと、時折り麺をすする音だけが聞こえ

ている。食べ終わると、由香里さんは満足と言う

顔を僕に向け話しかけてきた。


「ねっ、結城さん私の話聞いてくれる?」


 僕は、頷きながらもこう答えた。


「良いんだけど、話をするんだったら場所変えよ

うか店も混んで来たし、落ち着かないから」


 渋谷の高層ビルが建ち並ぶ中にポツンとそこだ

けまるでタイムスリップしたかの様な場所がある。

そこが、金王八幡宮である。山門をくぐると正面

に本殿が見える。本殿の左右には樹齢五百年は経

っていると思われる立派な銀杏の木が着飾った淑

女の様に黄金色の葉を風に揺らしていた。僕達は、

両の手を清め、神様への挨拶を済ますと社務所

それぞれお守りを一個づつ求めた。それから、彼

女の話を聞いた。


「・・・・・」


 中々,喋り出さない彼女を見ててこちらから何

か言おうかと思っていたら、やっと由香里さんが

口を開いてくれた。


「私、今まであんなこと一度もなかった」


「えっ」


「人前で泣くなんて、さっき映画館でもその事を

ずっと考えてたんだけど解らなかった。自分の感

情をコントロールするのは割と得意だと思ってい

たんだけど、ねえ結城さんはどう思う」


 急にこちらに振られたけど返事のしようがなく

て僕が黙っていたら由香里さんも察してくれて話

の続きを始めた。


「そうよね、こんな事突然聞かれても私が解らな

いことを結城さんに、その答えを求めても無理な

話だって頭では理解してるんだけど」


 二人の間で少しの時間沈黙が流れ、神社の境内

に夕暮が降りて来て辺りが薄暗くなり始めたのが

感じられた。由香里さんが、小さいクシャミをし

たので僕は自分の着ていたブレザーを脱いで彼女

に着せ掛けた。由香里さんは、ブレザーの端っこ

をつまんでじっと見つめていたが、ポツリとつぶ

やいた。


「これかな?もしかして・・・」


 秋風が木々の枝葉を揺らし彼女の言葉が、よく

聞き取れなかった。


「うん?何」


 由香里さんは、山門を指差しながら言った。


「もう暗くなって来たし、おまけに寒いし帰り

ましょ」


 さっきまでの元気の無い由香里さんは、どこ

かに消えていつもの彼女が戻って来ていた。僕

は理由は解らないけど、それが何となく嬉しい

と感じる自分がいるのを不思議だなと思いなが

ら、すぐに彼女の後を追って神社を後にした。

誰も居なくなった境内は、少しづつ暗くなり始

社務所の明かりが灯されいつもの静寂がこの

辺り一帯を包み始めていた。