星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨小説】~仮想の果実 3~ 


宴の日

 坂田家には、いわゆる猫の額ほどの庭がある。その庭
 
に入る門柱のステン製の扉を開けると右側に見るからに
 
貧弱そうな雑木がある。
 
多分どこかの鳥が種子を運んできたものだと思う。なぜ
 
なら夫婦にはそれを植えた記憶がなかった。それから玄
 
関の脇に申しわけ程度の小さな菜園があるが、そこは順
 
子のお楽しみの場所だ。
 
「今年はキュウリとじゃがいもそれにミニトマトを育て
 
るつもり、去年キュウリが虫に
 
やられて全滅しちゃったから今年はそれのリベンジっ
 
てとこかしらね」
 
 陽一は、順子の言葉を聞きながら全然別のことを考
 
えていた。和彦の事である「あいつはいったいこの先
 
どうするつもりなんだろう。仕事のこともそうだし、
 
今つき合っている彼女のこともあるし・・・・・」
 
「ねえ、聞いてる」
 
 順子は肥料袋のビニールを破りながらこちらを睨
 
んでいた。
 
「あなた、いつもそうよね人の話をうわの空で聞い
 
てる」
 
 手のなかに抜いたばかりの雑草を持っていた陽一
 
が少しあわてた感じで答えた。
 
「聞いてるよ、ジャガイモのリベンジの話だろう」
 
「違うわよキュウリよキュウリやっぱり聞いてなか
 
ったのね」
 
「ごめん、ごめん」と言いながら、陽一は別の話に
 
すりかえて言った。
 
「今夜、ほら何て言ったかな和彦がつき合っている
 
。さ、なんとかさん」
 
「さやかさんよ、もういい加減覚えないと失礼よ」
 
 あっ、そうかという顔をして陽一は手拭で額の汗
 
を拭きながら言った。
 
「今夜、そのさやかさん来るんだろう?」
 
 順子は、少し呆れた様子で肥料を土にやりながら
 
答えた。
 
「そうなの二人から大事な話があるって和ちゃん言
 
ってたけど何かしらね、まあだいたい想像はつくけ
 
ど…」
 
「・・・・・」
 
 土は日光に当たり過ぎたのか、少し水気が足りな
 
い色をしているがいい感じに耕されているようだ。
 
それから、一時間ほど菜園の手入れをしてから二人
 
は家の中に入った。日はまだ高く夕方にはまだまだ
 
早かったが今夜招待するお客さんの用意をしなくて
 
は、ということで夫婦は早めに切り上げたのだっ
 
た。
 
 

 

【仮想通貨小説】~仮想の果実 2~

 
 

春の日の来訪者

「はーい、今行きます」
 
 妻の順子の声が聞こえ、玄関を開ける音がし続いて若
 
い女の声がした。
 
「こんにちは・・・」
 
「あのー、どちら様でしょうか?」
 
 順子のちょっと警戒するようなそれでいて少し嬉しそ
 
うな声がしていた。
 
「あの・・・和彦さんはいらっしゃいますか」
 
「和彦ですか。はい、おりますけど・・・あの失礼です
 
けどお宅様はどちら様でしょうか?」
 
 そこまで聞いて、陽一は書斎を出てさりげなく玄関を
 
見た。順子の前に、二十四、五くらいに見える若い女性
 
が少しはにかんだ様子で立っていた。
 
「すみません申し遅れました。わたし、和彦さんが以前
 
働いていた会社の同僚で真島さやかと言います」
 
 陽一が、リビングに入ろうとしているのに気づいた彼
 
女がお辞儀を軽くしたのであわてて返した。
 
 「あ、じゃあちょっとお待ちください」
 
 そこまで言うと順子は二階に向かって声を張り上げ
 
た。
 
「和彦、和ちゃんお客さんよ。下りてきて」
 
 リビングで陽一と順子は黙ってコーヒーを飲んでい
 
る。部屋中にコーヒーの香が漂っていた。半分ほど
 
飲んだ所でもう我慢が出来ないという風に順子が口
 
を開いた。
 
「ねえ、あのお嬢さん和彦の彼女かしら、あなたどう思
 
う?」
 
 陽一は、残りのコーヒーをいっきに飲んだ苦みが少し
 
口に残った。
 
「・・・・・」
 
「和ちゃん、結婚とかいろいろ考えているのかしら?」
 
 のん気でいいな、この人はと陽一は思っていた。だい
 
たい結婚してからがそうだった。彼女には危機感という
 
ものが無い、いや、あるのかもしれないがあまり人前で
 
は見せないのだ。まだ、二人が若く和彦が幼かった頃わ
 
が家の経済状態はかなり厳しかった。仕事は頑張ってい
 
たが、なにせ給料が安かった。働いても働いてもなかな
 
か貧乏所帯からは抜け出せなかった。そんなこんなで、
 
ついイライラして彼女にもろに感情をぶつけてしまった
 
ことがあった。そんなときでも彼女は泣きもせず、いや
 
本当は俺の知らないところで泣いていたのかも知れない
 
が・・・・・。
 
「何とか、なるわよ」が彼女の口癖だった。今となって
 
みればそれに随分と救われたような気がするが。
 
「ねえ、聞いてる?」
 
 順子に、そう言われて陽一は、コーヒーカップを手で
 
もてあそびながら言った。
 
「あぁ聞いてるよ、でも仕事もしていないのに結婚がど
 
うのとかの話じゃないだろう」
 
「そりゃあ、そうなんだけど…そんな事、何とかなるん
 
じゃないの」
 
 ほら、やっぱり出たと陽一が思った時、二人が二階か
 
ら下りてきた。和彦は外出する格好をしていた。
 
 「ちょっと、出かけてくる」
 
 和彦が靴を履いているその隣で、さやかが笑顔まじり
 
の元気な声で言った。
 
「おじゃましました。これで、失礼します」
 
「まあ、まあお構いもしませんで」
 
 玄関の上がり框のところで、順子が愛想笑いの挨拶を
 
した。
 
「和彦、遅くなるのか?」と陽一が聞いた。
 
「ああ、だから今日は夕食の用意はいいよ」
 
 和彦と真島さやかと言ったお嬢さんを見送った後、夫
 
婦二人は期待と不安が入り混じった妙な気分で書斎と台
 
所に戻っていった。
 

【仮想通貨小説】~仮想の果実 1~ 

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老いの誤算

 


「もう、あれから一年か・・・・・」
 
と、陽一はつぶやいた。つぶやいて、大きな溜息をつく
 
、その後両手で頭を抱えるポーズをとる。そしてまた、
 
溜息をつくそんな事を繰り返しながら陽一はこの一年を
 
過ごしてきた。坂田陽一は、今年六十二歳になる自宅の
 
住宅ローンは去年終わった。大きな借金もなくそこそこ
 
貯金もある。夫婦仲も人がうらやむほど仲良くはないけ
 
れどそんなに悪い関係でもない。順風満帆とは言えない
 
けれど、何とか夫婦二人して子供を育て生活の為とはい
 
え、仕事もそれなりにこなしてきた。妻の順子は現在五
 
十九歳である、大病もせず陽一についてきた。今は近所
 
のスーパーでパート勤めをしている。そんな、二人の悩
 
みといえば一人息子の和彦のことであった。和彦はいま
 
三十六歳である。大学を出て一流の商社に勤めていたが
 
去年の春、突然会社を辞めた。
 
「あんな、良い会社どうして辞めたんだ?」
 
 それこそ、飽きるほど、陽一は妻の順子と一緒に何回
 
も息子に聞いてみたが和彦の答えはいつも同じだった。
 
「別に理由はないよ」
 
 和彦は、またかというような顔をして言う。
 
「理由はないって、お前それじゃ答えになってないだろ
 
う」
 
「いいじゃないか俺の人生だ、親父には関わりないだろ
 
う」
 
「関わりないってことはないだろう・・・・・」
 
 会話は、いつもそこで終わる和彦は黙って二階の自分
 
の部屋に行きそれからしばらくは下りて来ない。陽一と
 
順子はなすべなく二階を見つめる。
 
「あの子、どうしてあんな風になってしまったんでしょ
 
う?」
 
 と、順子が言った。
 
「・・・・・」
 
 そんなことは、俺が教えてほしいよ。と、陽一は思っ
 
ていた。自分の書斎から陽一は、庭の樹木を眺めていた
 
。この間まで寒風にさらされてまるで枯れ木のようだっ
 
た柿の木に、今は若葉が出て太陽の光を充分に受けツヤ
 
ツヤと美しく繁らせている。
 
「世の中は春、真っさかりなのにこの家はまるで冬だな
 
・・・・・」
 
 陽一は誰に言うともなくそう呟いていた。六十歳の時
 
、会社を定年退職し息子の和彦もまだ結婚はしていない
 
が生活的には独立しいろいろの重荷から解放されて、こ
 
れからは妻と二人で悠々自適だなとのんびりしたことを
 
考えていた。ゆるやかな春の風が、樹木の若葉を揺らし
 
ている。音もなく揺れているその若葉を見ながら陽一は
 
、息子の事を思っていた。和彦は、いろいろな意味で夫
 
婦にとってとても良い子だった。両親の言うことをよく
 
聞き学校の成績も悪くなかった。変にぐれることもなく
 
、それこそ順風満帆で幼稚園、小学、中学、高校、大学
 
それに就職とすんなりこなしていった。去年の春、会社
 
を辞めるまでは・・・・・。陽一は、心に思いながらい
 
ままで言い出せずにいた事を、今日言おうと決めていた
 
。最初,息子が商社をやめたと聞いた時、息子には悩み
 
があり、それは人間関係のもつれかも知れないし、もし
 
かしたら精神的に鬱とかの病を患っているのかもとも思
 
いなかなか言い出せなかった事だった。 だが、息子の
 
言動や行動を見ていてどうもそんな物だとも思えなかっ
 
た。健康状態は見たところすこぶる良さそうだし精神を
 
病んでるようにも見えない。部屋に閉じこもりっきりと
 
いうわけでもないのだ、それは時々散歩と称してジョギ
 
ングに行くことでもわかる。
 
「和彦、働きもせずこのままこんな状態でいるつもりか
 
。だったらこの家には置いておけないぞ,今すぐ出て行
 
け」
 
 たった、これだけの言葉が言えず一年もぐずぐずとし
 
ている自分が情けないと陽一は思っていた。
 
「よし」
 
 と言って、陽一はおもむろに腰を上げた二階の和彦の
 
部屋に行こうとして書斎のドアに手を掛けたとき玄関の
 
チャイムの音が鳴ったのが聞こえた。