星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨小説】~仮想の果実 1~ 

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老いの誤算

 


「もう、あれから一年か・・・・・」
 
と、陽一はつぶやいた。つぶやいて、大きな溜息をつく
 
、その後両手で頭を抱えるポーズをとる。そしてまた、
 
溜息をつくそんな事を繰り返しながら陽一はこの一年を
 
過ごしてきた。坂田陽一は、今年六十二歳になる自宅の
 
住宅ローンは去年終わった。大きな借金もなくそこそこ
 
貯金もある。夫婦仲も人がうらやむほど仲良くはないけ
 
れどそんなに悪い関係でもない。順風満帆とは言えない
 
けれど、何とか夫婦二人して子供を育て生活の為とはい
 
え、仕事もそれなりにこなしてきた。妻の順子は現在五
 
十九歳である、大病もせず陽一についてきた。今は近所
 
のスーパーでパート勤めをしている。そんな、二人の悩
 
みといえば一人息子の和彦のことであった。和彦はいま
 
三十六歳である。大学を出て一流の商社に勤めていたが
 
去年の春、突然会社を辞めた。
 
「あんな、良い会社どうして辞めたんだ?」
 
 それこそ、飽きるほど、陽一は妻の順子と一緒に何回
 
も息子に聞いてみたが和彦の答えはいつも同じだった。
 
「別に理由はないよ」
 
 和彦は、またかというような顔をして言う。
 
「理由はないって、お前それじゃ答えになってないだろ
 
う」
 
「いいじゃないか俺の人生だ、親父には関わりないだろ
 
う」
 
「関わりないってことはないだろう・・・・・」
 
 会話は、いつもそこで終わる和彦は黙って二階の自分
 
の部屋に行きそれからしばらくは下りて来ない。陽一と
 
順子はなすべなく二階を見つめる。
 
「あの子、どうしてあんな風になってしまったんでしょ
 
う?」
 
 と、順子が言った。
 
「・・・・・」
 
 そんなことは、俺が教えてほしいよ。と、陽一は思っ
 
ていた。自分の書斎から陽一は、庭の樹木を眺めていた
 
。この間まで寒風にさらされてまるで枯れ木のようだっ
 
た柿の木に、今は若葉が出て太陽の光を充分に受けツヤ
 
ツヤと美しく繁らせている。
 
「世の中は春、真っさかりなのにこの家はまるで冬だな
 
・・・・・」
 
 陽一は誰に言うともなくそう呟いていた。六十歳の時
 
、会社を定年退職し息子の和彦もまだ結婚はしていない
 
が生活的には独立しいろいろの重荷から解放されて、こ
 
れからは妻と二人で悠々自適だなとのんびりしたことを
 
考えていた。ゆるやかな春の風が、樹木の若葉を揺らし
 
ている。音もなく揺れているその若葉を見ながら陽一は
 
、息子の事を思っていた。和彦は、いろいろな意味で夫
 
婦にとってとても良い子だった。両親の言うことをよく
 
聞き学校の成績も悪くなかった。変にぐれることもなく
 
、それこそ順風満帆で幼稚園、小学、中学、高校、大学
 
それに就職とすんなりこなしていった。去年の春、会社
 
を辞めるまでは・・・・・。陽一は、心に思いながらい
 
ままで言い出せずにいた事を、今日言おうと決めていた
 
。最初,息子が商社をやめたと聞いた時、息子には悩み
 
があり、それは人間関係のもつれかも知れないし、もし
 
かしたら精神的に鬱とかの病を患っているのかもとも思
 
いなかなか言い出せなかった事だった。 だが、息子の
 
言動や行動を見ていてどうもそんな物だとも思えなかっ
 
た。健康状態は見たところすこぶる良さそうだし精神を
 
病んでるようにも見えない。部屋に閉じこもりっきりと
 
いうわけでもないのだ、それは時々散歩と称してジョギ
 
ングに行くことでもわかる。
 
「和彦、働きもせずこのままこんな状態でいるつもりか
 
。だったらこの家には置いておけないぞ,今すぐ出て行
 
け」
 
 たった、これだけの言葉が言えず一年もぐずぐずとし
 
ている自分が情けないと陽一は思っていた。
 
「よし」
 
 と言って、陽一はおもむろに腰を上げた二階の和彦の
 
部屋に行こうとして書斎のドアに手を掛けたとき玄関の
 
チャイムの音が鳴ったのが聞こえた。