星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨小説】~仮想の果実5~


求めない誤解

 陽一と順子は、二階の和彦に聞こえないように気を使
 
いながら小声で話しをしていた。和彦はまだ寝ているよ
 
うだ。夫婦の話の中心はどうやって和彦を怒らせずに病
 
院に連れて行くかだった。あれから陽一は、和彦から自
 
分がいかにして億万長者になったかという話を聞かされ
 
たのであるが陽一は、黙って「うん、うん」と頷いてで
 
きるだけ和彦を刺戟しないようにおとなしく聞いていた
 
。もちろん、話の内容などはほとんど聞いていなかった
 
。ただ、陽一は、和彦が不憫でならなかった。和彦は仕
 
事に疲れ人生に疲れ何もかも投げ出してしまったに違い
 
ない、そして空想と現実のはざまでその矛盾に耐えきれ
 
なくておかしくなってしまったんだ。きっとその中で生
 
まれたのが、あの空想通貨だったに違いない、というの
 
が陽一の出した結論だった。
 
「病院、どこに連れて行くかなお前どこか知らないか?
 
 
 陽一が囁くように順子に聞いた。
 
「私の、知り合いにそれ関係の病院を知っている人が
 
いるからちょっと聞いてみるわ。
 
それよりあちらの親御さんには何て言ったらいいのか
 
しら」
 
 陽一は、腕組みしながらリビングのサッシのガラス
 
から見える景色を見るともなく見て答えた。
 
「まだ、俺たちに伝えたくらいで向こうの親には言っ
 
てないんじゃないか」
 
「それなら、いいけど、まさかあの大金持ちって話は
 
してないでしょうね?」
 
 順子が、溜息をつきながら言った。一応、陽一は順
 
子に昨夜の話をかいつまんで伝えていた。そのときの
 
順子の愕き、落胆は尋常じゃなかったが夫婦の結論は
 
、若い二人を出来るだけ傷つけない方法で別れさせる
 
ということに決まったのである。
 
「さやかさんが可哀そう」
 
 順子が涙目のか細い声で言った。
 
「うーん、二人には可哀そうなことになるけど、こ
 
れが最善の方法だと思うぞ」
 
「誰が、可哀そうだって?」
 
 テーブルを挟んで話しこんでいた夫婦の真上から
 
突然声がしたので、「うわ!」「ひえ!」と言葉に
 
ならない奇声をあげて二人は思わず椅子から立上っ
 
てしまった。
 
「なに、二人でコソコソ話し合ってんだよ」
 
 いつの間に、来ていたのか和彦が夫婦のうしろに
 
立っていた。
 
「いや、なに、その、なんだ何でもないんだ。あっ
 
、そうそう遠い親戚の話だよ。なあ母さん」
 
 陽一は、慌てまくってしどろもどろに答えた。
 
 順子は順子で、何よ私に振らないでよと言わ
 
んばかりに陽一を睨んだ。
 
「どうせ、俺を病院送りにする相談でもしてい
 
たんだろう」
 
 図星を当てられて、陽一が焦って弁解したが
 
額に変な汗が出ていた。
 
「違うんだよ和彦、さっきの話は遠い親戚の話
 
だ」
 
 陽一の、あせっている様子を見ながら和彦は
 
椅子に座った。まだ寝起きらしく頭は寝ぐせが
 
ついたままボサボサである。
 
「母さん、コーヒー入れてくれない?」
 
 順子は、まるで壊れ物でも扱うかのようにお
 
どおどとして台所に立った。
 
「はい、はい今すぐ入れてあげるからね。落ち
 
着くのよ、とにかく落ち着いて」母親に入れて
 
もらったコーヒーを一口、二口呑んだところで
 
和彦が口を開いた。陽一と順子の夫婦は少し上
 
目遣いに自分たちの息子が何を言い出すのかと
 
戦々恐々としていた。
 
「あのさ、そんな目で自分の息子を見るのはや
 
めてくれないかな」
 
 和彦は、少し非難するような眼で二人を見て
 
言った。夫婦は黙って和彦の言う事を聞いてい
 
た。
 
「多分、こういう事になるだろうなと思って中
 
々言い出せなかったんだよね。親父たち
 
の反応は予想通りだったよ、言っとくけど俺は
 
頭がおかしくなんかなっていないよ」
 
 親としては、息子の言うことをできれば信じ
 
てあげたい、でもあんな突拍子もない話は信じ
 
られない、というのが正直な気持ちだった。
 
「お前の、話は現実味が無さすぎる」
 
 陽一が言った。
 
「私もそう思うわ」
 
 続けて順子もそう言いながら頷いた。
 
「解った、じゃあこうしよう今から街に出よ
 
う。そこで俺の言ってることが本当だって
 
こと証明するから」
 
 それから、しぶしぶ承諾した二人を連れて
 
和彦、陽一夫婦の三人は春の日差しが初夏の
 
ように熱く照り付ける中を陽一の愛車で出か
 
けて言ったのである。