星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車 6~

 


 春に出た若葉がその盛りを過ぎ秋を迎え、色も眩し

い緑から赤く色づきやがて冷たい北風に耐えきれずは

はらと地面に落ちた。冬を知らせる白い雪がしんし

んとその落ち葉に積り、道路がまるで綿毛を敷き詰め

たように真白になり、そして暖かい春風が又、吹き出

した頃、2014年3月を迎えようとしていた。

 

「ここかな」

 

 と、浩一はつぶやいて立止まった。見上げた事務所

の看板には大木税理士事務所と書いてあった。あれか

ら、浩一の資産は億を超える額になっていた。浩一は

アルトコインで稼いだ資金を今度は全部ビットコイン

に変えたのだが何と、そのビットコイン買った当初こ

そ4万円台だったのが、高騰と下落を繰り返しながら

あれよあれよという間に12万円まで高騰して史上最

高値をつけてしまっていた。ここに至って、浩一もさ

すがにこの辺で日本円に変えとかないといくら右肩上

がりのビットコインでも、そろそろ大暴落するんじゃ

ないかと危惧し始めたのだ。仮想通貨のままだと、日

本ではこれを規制する法律がまだない現状なのでいく

ら稼いでも税金の対象にはならないが日本円に利確し

た時点でFXの取引と同じように、いやも応もなく税金

の対象になる。

 

「まさか、こんなに早く税理士事務所に行くことになるとはな…。」

 

 当の本人の浩一も信じられない気持だったのだ

が、こうなると税金の事には全く無知な浩一もせ

っかく稼いだ金をむざむざ税金でがっぽり取られ

るのも悔しいので、少しでも税金対策をしようと

この事務所まで足を運んだのであったのだが。

 

「どうぞ」

 

 事務員であろう年の頃で言うと20代後半に見える、

女性がお茶を運んできた。

 

「あ、どうも」

 

 浩一がお礼を言うと、事務員は少し気の毒そうな顔

をして小声で告げた。

 

「先生、いま来客中ですので少々お待ちください」

 

 事務所は、割とこじんまりとしていたが事務員

とおぼしき人は先程の女性ともう一人40年配くら

いの女性二人のようだ。先生と呼ばれたこの事務

所の責任者は浩一が座っているソファーとの間に

ある簡単な間仕切り用の据え置き式のカーテンの

向こうで何やらお客と話しこんでいる。

 

「いやーっ、どうもお待たせしました」

 

 15分ほど待たされて浩一の所に、やっと来たの

は60代後半くらいの痩せて眼鏡をかけたいかに

も税理士っぽい男だった。
 
「お電話でお聞きしたところによりますと、何や

ら相場で相当の利益が出て、その税金相談と受け

たまわったのですが、そういう事でよろしかった

ですか」

 

男は、名刺入れから名刺を取り出しながら浩一に

そう言った。

 

「はあ・・・。」

 

 浩一は、曖昧にそう答えた。名刺を見ると税理

大木実と書いてある。浩一が何か言いかけよう

としたとき、先程相談を受けていた客が帰ろうと

ドアーの所に行きかけていた。

 

「あ、ちょっと失礼」

 

 大木が言った。

 

「書類、整い次第またご連絡差し上げますので、

今しばらくお待ちください。それでは、御気を

つけてお帰り下さい」

 

 大木がそう言うと相手の客も軽くお辞儀をし

て事務所をでていった。結構、そつのない男だ

なと浩一は感じた。何せ、大金がかかっている

からな信用おける相手出ないと心配だ。けどそ

の点でこの大木という男は信頼できそうだなと

浩一は自分の事は完全に棚に上げて、待たされ

ている間そう考えていた。
 

「それでは、具体的にお聞かせ願いますでしょ

うか」


 客を送り出して、戻ってきた大木がそう言っ

た。浩一は、それからこれまでの経緯を話した

のだったが、これが予想以上に大変だった。な

ぜか?まず大木税理士が仮想通貨の事を全く理

解できなかったのである。株とか投資信託だっ

たら容易に想像できたのだろうが、話が暗号通

貨とういう全くもって新し過ぎるテクノロジー

なので大木の中にそれに対する知識がまるっき

り無い事でまるで話が噛み合わなかったのだ。

浩一はイライラする心と怒りの感情を抑えなが

らそれでもこの男にしてはめずらしく辛抱強く

話していた。どうやら、仮想通貨に関わったこ

の何カ月の間に今までかなりいい加減に生きて

きた、この中村浩一と言う男はそれなりに学習

し良い意味で人間的に成長したのかも知れなか

った。とにかく浩一はこの事務所に来てはっき

り分かったことが一つあった。世の中の人の仮

想通貨に対する認識はこの程度だと、ここが特

別なわけではなく世の中全体こうなんだとそれ

は浩一と大木の話を最初は好奇の眼で見ていた

二人の女性事務員の態度で解った。話が進むに

つれて浩一を怪しい儲け話をする詐欺師でも見

るように変わって言ったのだ。浩一は、心の中

で腹も立てていたが又逆の事も考えていた。実

際に俺はこの仮想通貨で資産を増やしているか

ら理解できるけど世の中の大半の人はまだ知ら

ないこれがどのくら凄いことなのかとそれだか

らこんな俺にもチャンスが巡って来たのだと、

そしてその大半の人がそのことを知った時には

すでに遅いという事も


「それでは、預金通帳にお金が振り込まれた時

点でまた寄らせてもらいます」


 結局、大木税理士が本当に理解しているのか

いないのか分からないまま、浩一は税理士事務

所を後にした。まあ、この際そんなことはどう

でも良かった。兎に角この日本に限らずどこの

世界でも現金を見せない事には話にならないと

いう事だけは解った浩一であった。浩一は何と

か解ってもらおうと思って結局、仮想通貨の説

明に一時間以上喋りまくっていた間に時刻はお

昼をとっくに過ぎていた。いらぬ、労力を使っ

てしまって急に腹が減ってきた浩一は通りのラ

ーメン屋に入った。


「すいません、ラーメン定食お願いします」


 この頃の、浩一はビットコインをときどき日

本円に変えていたので、もう前のように金に困

って食事にこと欠くはなくなっていた。出来上

がってきたラーメン定食を前に「さあ、喰うぞ」

とばかりに割りばしを、割ったとき店のテレビ

の声が浩一の耳に流れてきた


「今日、仮想通貨のビットコイン取引所の一つ

であるマウントゴックス社が大変な事態になっ

ています」