星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車8~



 
 2014年2月にビットコイン消失事件が起き、最終

的に500億円相当の被害が出て、同年4月にマウント

ゴックス社は事実上の経営破綻に追い込まれた。

記者会見の放送が流れてあっという間にこのビット

コインの取引高世界一と言われた取引所は崩壊した。

あまりにもあっけなくひとつの会社がこの世界から

消えたのだが、マウントゴックス事件が日本の社会

に残した物は大きかった。ビットコインの信用は地

に落ち、仮想通貨そのものが怪しい、危ない、詐欺

そんなイメージが日本人の頭にインプットされてし

まった。これは、後々判明した事なのだがビットコ

インが消失したのはハッキングが原因ではなく、マ

ウントゴックス社社長のマルク・カルプレスの横領

事件であったのである。つまりビットコインの仕組

みその物には何の不都合はなく、結局一人の人間が

起こした犯罪行為であったのだが、世間の見方は違

っていた。それは、そのときのマスコミの報道の仕

方が、まるでビットコインそのものが悪いかの如く

放送されてしまった為である。

それ故に今になっても日本では世界に比べてビット

コインの普及が格段に遅れるという結果を残してし

まっている。まあ、それはもう少し未来の話なのだ

が、ここは話を現在の浩一に戻してみよう。あれか

らの浩一はまるで、運命の女神から見捨てらたかの

ように不運が続いていた。

所有していたビットコインが全て無くなったのは当

然だったが、無くなる前にビットコインを多少現金

化していたのだがそんな物はすぐに底を尽き、たち

まち生活に困る事になり頼みの綱の母親に連絡を取

ってみたのだが・・・。

 

「もしもし、お袋」


 浩一はかなり切羽詰まった声で母親に言った。


「あ、浩ちゃん・・・・・」


 歯切れの悪い、母親の声で浩一は嫌な予感がした

のだがそれは当たった。母親の声の向こうに浩一の

最も苦手とする父親の声で「おい、携帯ちょっとか

せ」と言っている声が聞こえていた。


「おい、一回しか言わないぞ、よく聞けお前は勘当

だ。お前が今まで紀子から借りた金は手切れ金変わ

りだ。返さなくとも良い、その代わり親子の縁はこ

れで切る以上だ」


 ほとんど、怒号に近い声でそれだけ言うと父親

電話は切れた。こちらも、あっという間に親子とい

う細い糸がぷっつりと切れてしまった。完全に追い

詰められた浩一は、自分のプライドからここだけは

避けていたのだが背に腹は代えられず電話をしてみ

た。


「はい、坂田でございます」


 電話口に出たのは坂田和彦の母親であった。


「あの私は、和彦君の大学時代の学友で中村浩一と

言うものですが、和彦君は御在宅でしょうか?」


 浩一が言った。


「和彦ですか、和彦なら今は、出張でアメリカに居

りますが・・・」


 坂田和彦の母親の返事は、大方予想どうりだった

が、もしかしたら帰って来てるんじゃないかと心の

奥底で思っていた浩一の落胆は大きかった。


「そうですか・・・」


 浩一は丁重にお礼を言って電話を切った。坂田が

もし日本に帰っていたらどうにか頼み込んで坂田が

持っているビットコインを何とか譲ってもらうつも

りでいた。が、その望みは絶たれた。親も頼れない

し、友達もあてに出来ないとなるとこれしか無いな

と浩一はある決心をその時していた。


「仮想通貨の市場は、まだまだ成長を続けている。

そうだまだチャンスはいくらでも転がっている今

回は思わぬアクシデントで失敗してしまったが、

原資となる金さえ用意できればいいんだ」


 浩一は、そう考えていた。そうは言っても浩一

に投資に使える金を作れるあてなど無かった。サ

ラ金と考えたが、サラリーマンでもない浩一に金を

貸してくれるところなんて皆無だった。


「金が用意できれば、金さえどうにかできれば」


 浩一は、頭の中で昨日からその事ばかり考えてい

た。一晩中考えに考え抜いて浩一はある考えに辿り

ついた。

 

「よし、出かけるか」

 

 浩一は、アパートを出るとあらかじめ調べておい

た住所に行くべく電車に乗った。神田駅に程近いそ

の場所に着いた時は、もうお昼近くになっていた。


「ここか・・・」


 季節はもう葉桜の緑が眩しい5月になっていた。

そう大した距離では無かったのだが浩一の額には結

構な量の汗が浮かんでいた。額の汗を手で拭って、

立ちどまり見上げたビルの3階の電飾看板には少し

かすれた文字で、「阿久戸金融」と書いてあった。