星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~歪んだ歯車9 ~

 

 

 


 灯りを消した部屋で、浩一はパソコンの前に坐って

いた。その顔はパソコンの画面の青白い光に照らされ

闇の中に不気味に浮かんでいた。その眼はパソコンの

前においてある紙袋をじっと見つめている。紙袋の中

には昼間浩一が阿久戸金融から借りた三十万円が入っ

ていた。浩一が金を借りた阿久戸金融とは、法の網を

かいくぐるやり方で商売をしている者が営む、いわゆ

闇金と言われる所だった。当然浩一のようなサラ金

も相手にしない者に金を貸すのであるからその利子は

世間一般からしたらとんでもない法外な額である。普

通考えたら正気の沙汰ではないのであるが浩一のよう

に追い詰められている者にとっては、そんな所でも地

獄でキリストにでも出会ったかのような気持になるの

であろう、が、それが地獄の一丁目に行く入り口なの

だと浩一は微塵も考えていなかった。


「よし、これで又スタートラインに立てたぞ」


 浩一は闇の中でつぶやいた。浩一にしたって、いい

加減な所はあるにしろ馬鹿ではないので闇金から借り

た金を返せなかったらどういう事になるかぐらいは容

易に想像できた。もし、そうなったら利子が利子を生

みたちまち雪だるまの様にとんでもない額になってし

まうのは眼に見えていた。しかし浩一にはかなりの確

率で借金をすぐにでも返せる自信があった。何といっ

てもこの間まで仮想通貨で稼いだ資産があったという

事実が大きかった。


「この位の、はした金どうって事ない、耳をそろえて

すぐにでも奴らに返してやるさ」


 浩一は、紙袋から出して机の上に整然と並べた三十

万円を睨みつけるように見て、まるで吐き捨てるよう

に言った。だが投資の世界に限らずこの世の中には絶

対にやってはいけない事がある。特に投資する際の原

資は余剰金でやるというのは大原則である。それを生

活費だとかましてや余裕もないのに無理して金を借り

それを投資に充てるなどと言うのは、言語道断な事な

のであるが、今の浩一にはそんな冷静な判断は出来な

かった。焦りが焦りを呼びとにもかくにも以前の様に

ビットコインで一発当てるその事しか頭に浮かばなく

なっていた。それがどういう結果を生むかを考えもせ

ず・・・・・


「俺には、運命の女神がついている。きっと今度もう

まくいくはずだ。きっと絶対に」


 浩一は誰に言うともなく言った。まるで自分自身に

言い聞かせるように。翌日から浩一は精力的に動いた。

やったことは前回とほぼ変わらなかった。まずはこれ

はというコインを厳選して買い相場の様子を見ながら

値が上がるチャンスを待った。柳の下にドジョウは普

通二匹はいない物なのだが果たして浩一が仮想通貨を

購入したあたりから何という事かビットコインが上昇

し始めた。それに呼応したかの様にビットコイン以外

のアルトコイン達もどんどん上昇を始め浩一の買った

いくつかのコイン達も凄まじい勢いで爆上げが始まっ

ていた。浩一の投資した原資はたちまちにふくれあが

って行った。もうビットコインの上昇は、留まるとこ

ろ知らずという風に毎日上昇を続けていき一週間も経

つと前ほどでは無いが浩一の資産はそこそこの額にな

っていた。


「よし、良いぞ俺はまだ運に見放されたわけじゃなか

った。やっとこれで元通りだ。そうだ、ここから俺の

サクセスストーリが始まる」


 浩一は、また笑いが止まらない状態になりつつあっ

た。だが、さずがに前回のように何が起こるか解らな

いという事は学習した浩一だったので、明日にでも日

本円に利確して兎に角この資産を確固たるものにして

置くという事は決めていた。


「よし、今日は前祝いだ。祝杯を上げに町に繰り出す

か」


 浩一自身こんなにうまくいくとは思っていなかっ

た。というのが正直なところだったのであるが、事は

浩一の想定をはるかに超えてとんとん拍子に進んで行

った。正に奇跡だと浩一は感じていた。浩一はしたた

かに酔っていた。まるでそれまでの不遇をなじるかの

ように、しかし元はと言えばその不遇も自分の不遜が

招いたことなのだが、その事は完全に忘れて浩一は勝

利の美酒に酔いしれていた。浩一が酒にうつつを抜か

している間にもビットコインの上昇は止まらずある頂

点を目指すように凄まじく上り詰めて行った。時間は

刻々と進み今日が終わり、明日がまた始まろうとして

いた。その頃、浩一はキャバクラに乗りこみ、まるで

ひと時の青春を無駄に消耗しているかのように見える

若い女神たちに囲まれしたたかに酔っぱらていた。

時刻は、0時30分から0時31分に変わった。その瞬間、

それまで打ち上げ花火のように上昇を続けていたビッ

トコインの動きがピタッと止まった。

 

暫くその位置をキープしていたが一瞬後、その美しく

描かれていた右肩上がりの上昇線はきびすを返すと、

まるで奈落に落ちるナイアガラの滝さながら、真っ逆

さまに落ちて行った・・・・・。