星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 7 ~


 

 「この世界に存在するのは、老化と風化だけだ。

時間があるように感じるのは錯覚に過ぎないのだ

が、困ったことに人間にとってこの錯覚がないと

非常に生きづらいと言うのもまた、事実なのであ

る」

 

 あの衝撃的な夜から一カ月が過ぎていた。監視

カメラの画像は一週間分を週末にまとめて視てい

る。今のところ、それらしい画像は映っていなか

った。今夜も、ビールを飲みながらいつものよう

に録画チェックをしていたら傍らの携帯が鳴った。

 

「もしもし、結城さん?」

 

 僕の耳に聞きおぼえのある声が聞こえてきた、

声の主はすぐ解った。

 

「あっ、由香里さん何かありました?」

 

「いいえ、実は仕事で結城さんのアパートの近

所まで来たので監視カメラの録画がどうなって

いるか気になったので、良かったら今から結城

さんの所にお邪魔して見せてもらおかなと思っ

て」

 

 僕は、正直とまどっていた。女の人を部屋に

入れるなんて初めての事だったので、つい黙っ

てしまった。その沈黙に気づいた彼女が言った。

 

「あの、迷惑だったらこのまま帰りますけど・

・・」

 

 ハッとして、僕はすぐに返事をした。

 

「いや、迷惑だなんてとんでもない。ただ部屋

が散らかっているので恥ずかしいなって思って」


 それからが、大変だった。十五分ほどで彼女

が部屋に来るという事なので、大慌てで掃除を

した。由香里さんがインターホンを押すタイミ

ングで何とか終わらせる事が出来たのでホッと

した。

 

「ごめんなさいね、突然お邪魔して」

 

 由香里さんは屈託のない笑顔で片手に持って

いた大きめのコンビニのビニール袋を降ろしな

がらそう言った。

 

「いや、ちょうどタイミング的には良かったで

す。今から今週分の録画を見る所だったので」

 

 冷蔵庫からコーラを取り出し日頃、僕が食事

をとっている折り畳み式の小さなテーブルにコ

ップと一緒に置いた。由香里さんと向かい合わ

せになる格好で僕たちは監視カメラの録画を見

る事になった。何の、変哲もない廊下を映して

いる画像を二人で見ているって、何かヘンテコ

な気分だった。半分ほど終わったところで、由

香里さんは、それまで食い入るように見ていた

視線を僕の方に向けるとようやく口を開いた。

 

「やっぱり、まだ動きは無いようね。あれから

一カ月経ったから、もうそろそろかなって思っ

たんだけど」

 

 僕も、それには同感だったので彼女に頷き返

した。こう何の動きもないと何だか肩透かしを

食らったみたいに、待ち人来たらずのおみくじ

を神社で引いてしまった気分だ。後半は、早回

しで見たので五分もかからず録画は終わった。

 

「これは、中々の長期戦になるかも知れないわ

ね」

 

 「そうだね」と答えながら僕は全然別の事を

考えていた。仮にも男性の部屋に入ってるのに

彼女のこの警戒心の無さはどうだろう。例えれ

ば、同性の部屋にいるような感覚で振舞ってい

る彼女を見ながらこれはどう考えたらいいのだ

ろうか?などと言う様な事を僕は考えていたが、

由香里さんの興味は僕の部屋に移ったらしく色

々と観察し始めていた。

 

「これは結城さんのコレクション?」

 

 彼女が見ているのは、僕がこれまで集めた映

画のDVDを納めた三段くらいある白いカラー

ボックスだった。

 

「そう、今まで見てきた映画のお気に入りのD

VDだよ」

 

 僕が、そう答えると由香里さんは映画の作品

が並べてあるカラーボックスから一本取り出し

ながら、こちらに背を向けたまま言った。

 

「ねえ結城さん、今日はこの一本を映画鑑賞し

ながらお酒を呑まない?どっちみち明日はお休

みなんでしょう」

 

 由香里さんは、持って来たビニール袋の中身

をテーブルの上に置きだした。僕は、正直言っ

て驚いていた彼女が持って来たものは6本セッ

トの350ミリ缶のビール、それとワインにお

つまみセットだった。

 

「いや、僕は全然構わないんだけどむしろお酒

飲むのも、映画もどちらも好きだから、でも良

いのかな?俺もほら一応男だし・・・」

 

 由香里さんは、僕の眼をじっと見つめながら

缶ビールを取りだすと、プルトップを引き上げ

ながら言った。

 

「大丈夫、結城さんが女性の意に反して理不尽

な事をする人では無い事は解っているつもりよ。

さあ、そんな事言ってないで始めましょ」

 

 何だか、貴方は人畜無害だから大丈夫と言わ

れている様で釈然としない気持ちはあったが、

全然予期してなかった由香里さんとの酒盛りと

映画鑑賞は、内心大歓迎の僕だった。彼女が選

んだのは、リーアム・ニーソン主演の96時間と

言う93分程の長さの作品だった。テンポが速い

作りなのと映画の面白さも相まって時間を忘れ、

あっという間に見終わってしまった。映画が終

わると、テレビの画面を夢中で観ていた由香里

さんが、僕の方を向いて言った。

 

「で、結城さんに聞きたいんだけど今試してい

る事が上手くいって犯人の所在が解ったその後

はどうするか考えているのかしら?」

 

 由香里さんは、少し頬を赤らめた顔で僕に聞

いてきたが、その手に持っているコップの中身

は、麦色のビールから葡萄色の赤いワインに変

わっていた。

 

「うーん、正直そこまでは考えていないかな、

どう言う理由で僕の部屋に侵入したのか聞きた

い気持ちは強いけどね」

 

 返事をして、彼女の顔を見たら潤んだ瞳で僕

を見ている。ドキッとする程、魅力的な眼差し

だった。いくら僕が、人畜無害と言ってもこん

な眼を向けられたら流石に男の本能がむっくり

と起き上がるのを感じていた。酒のせいもある

かも知れなかった。これはまずいと思う心と、

これは二度とないチャンスだぞ、何て囁く天使

と悪魔のせめぎ合いが僕の中で起きているのを

知ってか知らずか彼女が呑気に答えた。

 

「ふーん、そうなのね・・・」


 僕は、由香里さんの返事を聞きながらビール

の入ったコップをテーブルに置き、レコーダー

からDVDを取り出し振り向きざまに彼女に言

った。

 

「由香里さん、もうそろそろ帰らないと終電に

間に合わなくな・・・えっ!」

 

 彼女は、寝ていた。静かな寝息が、僕の鼓膜

にまるで音楽の様に心地よく響いていた。

 

「マジかよ・・・」

 

 取り敢えず、風邪を引かない様に由香里さん

に毛布を掛けてあげたけど、彼女が余りに気持

ち良さそうに寝ているので、起こそうかどうす

るか迷っている間に時だけがダラダラと過ぎて

しまい、そうこうしている間に終電に、間に合

わない時間になってしまっていた。遠くで、救

急車のサイレンの音が聞こえている。その音に

合わせるかの様に、近所の犬の「ウオォーン」

と吠える遠吠えが聞こえる。サイレンの音は遠

くになるに連れ次第に聞こえなくなり、犬もい

つの間にか鳴きやんでいた。やがてあたりに静

寂が戻り闇が急に濃くなり始め、気もそぞろな

僕の夜はしんしんと更けて行った。