星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 10 ~

 


 危険に遭遇したときの恐怖をあらゆる動物は、

もっと肌で感じ想像して行動すべきである。底

無し沼に落ちてしまった森の小鹿を、誰も助け

てはくれないのだ。ただ沼に足を踏みこんでし

まった自分の軽率さを呪いながら泥の中に沈ん

でいくだけしかないのだから・・・

 

「おい、聞こえてるか?」


 言われて、由香里はすぐに返事を返した。


「そんなに大きな声で言わなくっても聞こえ

てるわよ、伯父さん」


 その、返事を聞きながら田崎所長はいつも

の倍は苦虫を噛み潰していた。

 

「由香里、事務所じゃ伯父さんと呼ぶなと言

っているだろう。所長と呼べ所長と、それよ

りも例の大木さんの浮気調査は、進んでいる

のか?」

 

 田崎所長は、胸のポケットから煙草の箱を

取り出しながら言った。間髪入れず由香里が

答えた。

 

「もちろん、私の仕事に抜かりはないわよ。

後は証拠固めの浮気現場の決定的な写真が

取れたら完璧なんだけど。もう二、三日は

掛かりそうね。それよりも、伯父さん事務

所は禁煙ってこの間決めたでしょ。タバコ

吸うんだったら外で吸ってよね」

 

 さわやかさを少し通り過ぎて寒いくらい

の秋風の中、田崎は屋上で煙草を吹かしな

がら、姪の由香里の事を考えていた。弟夫

婦を交通事故で亡くしてから、あれを引き

取り今日まで自分たち夫婦で育てて来た訳

だが、まあ自分で言うのも何だがいい娘に

育ってくれたと思っている。それは解って

いるのだが、いささか元気に育ち過ぎの所

は逆に心配の種でもあった。由香里が大学

を卒業する頃に私は、長年勤めた警察を辞

めることになってしまった。そのせいかど

うか解らないが由香里は、内定が決まって

いた銀行を蹴って、私がなけなしの退職金

をはたいて始めた探偵事務所を手伝うと言

い出した。当然、反対したがその時には銀

行の内定を断っていたので後の祭り、なし

崩し的にこの事務所で働くことになってし

まった。反対の理由はもちろん危険だから

だ。私は警察の仕事柄、知らず知らず人の

恨みを買う事もあった。たいていは逆恨み

ではあったが、この探偵稼業も似たり寄っ

たりで、そんな仕事をさせるなんてとんで

もない話なのだ。あの娘には、普通にOLで

働いて普通に結婚してもらいたいと、考え

ていたのだ。それが、弟夫婦の願いだとも

感じていたのだが、世の中思い通りになら

ないものだと煙草の吸殻を靴でもみ消しな

がら田崎は思っていた。「そろそろ、事務

所に戻るか」知らず独り言が出て来るのを

苦笑いしながら屋上から事務所に戻ると由

香里は電話の応対の最中だった。

 

「はい、そうですね。はい、解りました。

伯父が帰ってきたら早速相談してみます。

じゃあ、また後ほど」

 

 由香里は、受話器を持ったままの姿勢で

何事か考えていたが、何かまとまったのか

戻った田崎に話を切り出した。

 

[所長、実はお願いがあるんですが」

 

 めずらしく、由香里は伯父さんとは言わ

ず所長と言った。

 

「断る!」

 

 田崎は躊躇なく答えた。

 

「まだ、何も言ってないじゃない」

 

 ふくれっ面の由香里に構わず田崎は自分

のデスクに坐った。

 

「聞かなくても解っている。お前が、そん

な言葉づかいの時はたいていろくな頼みじ

ゃ無いってな。それに、大体察しは付いて

いる。あの、結城何たらとか言う若造の件

だろう?ありゃあ、お前金が掛かり過ぎる

からって、俺はあいつの為を思って断った

んだぞ。それを、お前達二人してコソコソ

裏で動き回ってたろ。俺は、そう言うのは

嫌いなんだよ」

 

 由香里は、正面から頼んでも無理と悟っ

て搦手から攻めることにした。

 

「そうね伯父さんの言いたいことは解った

わ、でもこの探偵事務所の経営状態が、あ

んまり宜しくないことは伯父さんも解って

いるわよね。言っちゃなんだけど伯父さん

は相手の事を考え過ぎて仕事を選び過ぎて

いると思うの、今やってる浮気調査が終わ

ったらその後の仕事は入って無いし、実際

の所先月からいろいろの支払いが滞ってい

るし、それを考えたら結城さんの件を断る

のは得策じゃないと思う。それに結城さん

もタダでやってくれと言っている訳じゃ無

いんだし」

 

「・・・・・」

 

 こいつ、痛い所をついて来るな、と田崎

は思っていた。いったい誰に似たものやら

弟夫婦は二人とも大人しい性格だったし、

何となく由香里を見てると、鏡に映った自

分を見てるような気がする。「顔は、全然

違うけどな」多分、一緒に仕事をしている

内に自部の性格に似たのかと思わざる得な

かった。まあ、そこは少し嬉しい気持ちは

否めない田崎だったのだが。

 

「解ったよ、じゃあ話だけは聞いてやるよ。

で、どこまで調査は進んでいるんだ」

 

 由香里は、結城と二人でして来た事の一

部始終をできるだけ詳しく田崎に話した。

話の区切りがつくとそれまで黙って聞いて

いた田崎が口を開いた。

 

「それで、さっきの電話は何だったんだ」

 

 伯父のその言葉を聞いた由香里は、おも

むろに携帯を取り出すと番号を打ち込み通

話を押し、直ぐ切った。暫くして事務所の

ドアがノックと共に開けられた。田崎所長

がドアの方を見ると、そこには笑顔の爽やか

な一人の青年が立っていた。

 

「結城です。どうも、お久しぶりです」