星野ヒカルの仮想通貨関連小説

初めまして星野ヒカルといいます。仮想通貨の可能性に惚れこみ自ら仮想通貨の投資をやりつつ仮想通貨を世の中に知らしめたいと思いこのブログを開設しました。

【仮想通貨関連小説】~ REGAIN 12 ~

 

十二

 

「うーっ、正直息がつまる」と、自分の部屋なのにそ

う思っている僕がいた。それは、部屋中に充満してい

る煙草の匂いと煙のせいだったが、もう我慢の限界と勇気を振り絞って田崎所長に言った。

 

「あのー、田崎所長コンビニに行きますけど何かいる

物があれば買ってきましょうか?」

 

 田崎所長は、録画のモニターから眼を離さずこちら

に背を向けたまま答えた。

 

「あっ、悪いねだったら煙草切れそうだから買って来

てくれるかな?金は後で払うから」

 


 コンビニ店員に料金の支払いを済ませ店を出た僕は、

少しだけ後悔していた。こんな事なら、多少危なくて

も由香里さんに来てもらった方が良かったかな、なん

て事を考えていた。近所の公園で、一休みしようと寄っ

てみたが夕方という事もあって人影はなく、子供達が

砂遊びに興じたのだろう作りかけの砂のトンネルがあ

るのを眺めながらやっぱり彼女を危険な目に合わす訳

には、行かないなと僕なりの結論を出して、田崎所長

の待つ部屋に帰ることにした。日が暮れるまでもう少

しと思っていたが、案の定アパートに着くころには、

もう夜の帳が降りかけていた。

 

「ウーっ、寒い!毎晩だと老体にはキツイな」

 

 あまり、仕事で愚痴を言わないタイプなのだが寄る

年波には勝てず田崎はつい弱音が口をついて出てきて

しまった。月曜の夜から、張り込みを始めて四日目の

木曜日の深夜だった。今日も駄目かなと諦めかけた時、

アパートの階段を上がるギシギシと言う音が聞こえて

きた。田崎の全身に緊張が走る。

 

「やっと、来たか・・・」

 

男は、しばらく結城のアパートの部屋をうかがってい

たが、あまり長居はせずアパートを出た。尾行は、慎

重に慎重を重ねて行った。始発の電車に乗った犯人と

思われる男は、やはり周りを気にしている風だったか

らである。渋谷駅で降りた男は、以外に駅のすぐ近所

インターネットカフェに入って行った。男が使用し

ている個室の番号を確認したうえで田崎所長は尾行を

切り上げ事務所に戻った。気怠い倦怠感が、田崎の躰

にまとわりついていた。そのまま、ソファーに倒れ込

むとまるで遊び疲れた子供の様に程なく深い眠りに落

ちて行った。

 


「トゥルルーッ、トゥルルーッ」

 

 田崎のここち良い眠りに水を差したのは、電話のコ

ール音だった。田崎は、受話器を取り返事をする前に

長年の習慣で時計を見た。正午をとっくに過ぎて午後

一時を少し回った時間になっていた。

 

「あっ、伯父さんやっと起きたみたいね。私よ由香里」

 

 起き抜けの頭にキンキンと響く高音の声が聞こえ、

それは田崎の頭痛を招くには充分の音だった。

 

「何だ、お前か何処から電話してる自宅か?」

 

「何、言ってるの仕事よ仕事、例のインターネットカ

フェで張り込みやっているのよ」

 

 由香里の言葉は、田崎の頭痛を悪化させるのに一秒

と掛からなかった。

 

「お前、また勝手に動いているのか?それと俺の資料

無断で見ただろう」

 

 ちょっとの間、沈黙があったが由香里はすぐ答えた。

 

「ご免なさい、その事は謝る、でも今朝事務所に出勤

したとき、伯父さんの寝ている姿が余りに疲れている

風に見えたものだから、少しでも力になりたくて」

 

「・・・・・」

 

 そう言われるとうれしい気持ちも相まって何にも云

えない田崎だったが、そこは自分の心を押し殺して言

った。

 

「とにかく、ある程度調べが付いたら一回事務所に戻

って来い、解ったな」

 

 由香里は、怒られてシュンとするかと思ったが意外

に元気に答えた。

 


「解った、ちょっと面白い事も解ったんで帰ってから

報告します。じゃあ後は事務所に戻ってからという事

で」

 

 この時、すぐ戻って来いとなぜ言わなかったのかっ

と後々後悔することになる田崎だったが、この時点で

解る由もなかった。結城に由香里から連絡が入ったの

は、残業で会社にまだ残っていた午後七時の事だった。

 


「もしもし、結城さん由香里ですけど今大丈夫?」

 


 会社で残業してたけど、あらかた終わったので帰り

支度をしていたところだと僕は彼女に告げた。

 

「良かった、実は例の男を調べていたら面白いことが

解ったの」

 

 彼女は、得意そうに喋っていたが僕は一抹の不安と

ともにある疑問が湧いた。

 


「ちょっと待って、調べているって由香里さん今どこ

にいるの?」

 


 彼女の返事はすぐに帰って来た。

 


「渋谷駅近くのインタネットカフェと言っても店の前

の路地にいるんだけど・・・」

 


 彼女が、素直に事務所で留守番する筈が無いとは容

易に想像できたけど、まさかこんなに早く田崎所長と

の約束を破るなんて、それは想定外だった。

 

「あのさ、直ぐそこに行くから詳しい場所教えてくれ

るかな」

 


 僕の声に、少し怒気が含まれていることに彼女も気

づいたみたいで、素直に教えてくれた。仕事の資料を

手早くショルダーバッグに詰め込み上着を着て、会社

をとびだした僕は、一目散に彼女の待つインターネッ

トカフェに向かった。心配になって、途中歩きながら

由香里さんに連絡を取ってみた。

 

「はい、由香里です」

 

 彼女は、直ぐ出てくれた。

 


「もしもし、結城ですけど実は聞きたいことがあるん

だけど、ほらさっき由香里さんが途中まで言いかけた

あの男の事で面白い事があるって…」

 

 渋谷の喧騒音が交って少し聞き取りにくかったので、

僕は携帯を耳に押しつける様にして彼女の言葉を待っ

た。

 

「あーっ、その事ね結城さんにじかに会ってから話す

つもりだったけど今、言っとくね!実はあの男と例の

女子高生…ツーツーツー」

 

「もしもし、由香里さん聞こえる?由香里さん!」

 

 いきなり会話が途切れてしまった。最初に由香里さ

んからの電話で感じた不安が当たってしまった。彼女

の身に何かが起こったに違いなかった。そう確信した

僕は、由香里さんに教えてもらった場所に急いだ。よ

うやく現場に辿りついたものの、もう午後八時をすで

に廻っていた。案の定、由香里さんの姿はそこにはな

く踏みつぶされコーティングにひびの入った彼女スマ

ホが主がどこに行ったかもわからず寂しく路地の隅っ

こに落ちているのが見えているだけだった。